第2話 アクセサリー完成

 しろくんと、私の前世での関係が明らかになった一週間後。やっと、イヤリングとピアスが完成した。

 西村さんは本当にがんばってくれて、二日で注文の品を仕上げてくれたのだ。


 なんでも、ものすごく楽しくて編んでいて張り合いがあったとのこと。お金をもらうのだからと、気合もはいったそうだ。急いで作って疲れていないかと心配したが、西村さんの表情は生き生きとしていた。


 そして、売れたらまた注文するというと『待ってるえ。いつでも編むさかい』というたのもしい言葉を残して帰っていった。


 西村さんの丁寧な仕事が光る、イヤリングとピアス。

 ディスプレイにもこだわろうと、いろいろ考えた結果。蔵に眠っていた、木枠の小窓をつかうことにした。アルミサッシに変える時、捨てずにとっておいたと祖父はいっていた。


 木枠を分解し、はまっていたガラスをはずす。木製の部分はオイルステインをぬり、金具をつける。そうして、アクセサリーをぶらさげられるようにした。

 商品すべてをさげられないので、小ぶりのガラス張りのショーケースもネットで購入。古物なので木枠としっくりなじむ、シャビーな感じが気にいっている。


 ピアスとイヤリングの価格帯は二種類。価格の高いものは、ショーケースへ。

 木枠のアクセサリー掛けとショーケースを店内に配置して、私は腕組みをして大きくうなずいた。


「うん、かわいい」


 染め糸の部屋でパソコン作業しているしろくんが、こちらをながめて口をひらく。


「アンティークの部屋も華やかになりましたね」


 しろくんのふにゃりとした笑顔をみて、私も大きくうなずいた。

 ふたりの関係はちっともかわらない。前世で猫と飼い主だったとはいえ、店主とアドバイザーのまま。

 あの、しぼりだした声で言われた『ごめんなさい』の意味もわからないまま。

 わからなくていい、私たちは今の関係性を大事にすればいい。過去にとらわれているのは、よくない。それだけはわかる。


 私は腰に手をあて、カラッとあかるい声を出す。


「さっそくお店のSNSに画像アップしないとね。あと、あいるさんと純にいちゃんに連絡すると」


 するべきことをしろくんから指示される前に、私は行動にうつしていた。


 アクセサリーを店頭に出した次の日の夕方、さっそくあいるさんは来店してくれた。

 早番の勤務だったのでくることができたと笑っていうと、さっそくイヤリングを選んでいた。

 かわいいものを前にしてテンションのあがっているその横顔を見て、私の前世の話をするべきかどうか迷っていた。


 今日は、しろくんは来ない日。いうなら、いいチャンスなのだが。しろくんにしてみれば、人に知られたくないかなと勝手に気持ちを想像した。

 祖父にも誰にもいっていない。ふたりだけの秘密の方が、いいような気がした。


 藍染めの浅葱色のシルクタッセルとコットンパールのイヤリングを、あいるさんは選んだ。


「この色めっちゃきれい。冬の空の色みたいや」


 目の前でイヤリングをゆらす、あいるさんの瞳はどこか遠くを見ていた。

 イヤリングをうけとり、包装しながら私はおずおずときり出す。


「まだ、夢を見てるんですか」


 ふっとさみし気に、あいるさんの口の端がさがる。

 何もいわなくても、見ているんだとすぐにわかった。余計なことをいった。

 沈黙の中、手早くイヤリングの袋を差し出すと、あいるさんの視線は私の手首にくぎ付けになっていた。


「それひょっとして、会いたい人に会えるミサンガ? えっ、編み方わかったん?」


 しまった。いうのを忘れていた。頭をコツントつつきたいぐらいの失態だ。いわないのであれば、はずしておくべきだった。


「そうなんです。昔編んだ人がふいに思い出して。それで私も――」


「それ、私にも教えて!」


 前のめりな言動に、思わず背をそらせた。

 やはり、もういいといっていたけれど。本心はそうではなかったのだろう。夢の中の人に会いたい。その思いはひょっとすると、以前よりつのっているのかもしれない。

 真剣なあいるさんの、表情を見てそう思った。


 私はあやちゃんに教えてもらった作り方を、あいるさんに教えた。


「あの、前にあいるさんがお買い上げしてくれたピンクと紫の糸でもいいと思いますよ。たぶん、茜と紫染めの糸だから」


「たぶんやろ。ちがってたらかなんし、新しいの買うわ。その二色でねじり編みやね」


 あいるさんは、スマホにわざわざメモしている。編み方はネットで検索すればでてくるので、編み方の名前を忘れないようにと。


 茜色の本来の色、暗い赤と濃い紫色のコットンの糸を三十グラムづつ購入したのだが。十グラムで十分だといったけれど、失敗するといやだから多めに買うとあいるさんはいった。


 そして、つけくわえるように、


「まこちゃん、悪いけど伏見についてきてくれる? あの煙突の景色が気になんねん。私、やっぱり前世のこと知りたい。心にひっかかってるままは、いやや」


と思いつめた顔をする。

 夢の中で何かがあったのだろうか。

 私はたずねたい気持ちを飲み込み、あいまいにほほえむ。


「今度の日曜か月曜だったら、大丈夫です」


 過去にとらわれるのは、よくない。そう思っても、そんなこと今のあいるさんにいえるわけがなかった。






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