第14話 ご来店

 高校生たちの来店予定は土曜日。蚤の市を歩きまわった筋肉痛の足をさすりつつ、仕入れにいった翌日から商品のメンテナンスにおわれた。

 蚤の市で仕入れた商品はそのままでは、店頭にならべられない。まず、よごれやほこりをはらい、しろくんに手伝ってもらいながら値札をつけていく。


 今まで、アンティークやブロカントに値札はつけていなかった。商品がすくなかったのもあるけれど、手に取る人があまりいなかったのだ。

 値札がついていないから手にとらなかったんだ、としろくんにいわれた。


 値段がわからないものって、なんだか買う気がうせる。ということがはじめてわかり、仕入れた商品すべてに値札をつけた。


 でもあのトランクのおまけにもらった陶器の猫には、値札をつけずレジの横においた。


 カード類は一枚づつ袋に入れ、小さな値札のシールをはった。

 大量にあるカードを袋にいれるのは、大変だけど少しでも商品をよくみせるため。


 こうしてリンカネーションの店内は以前とくらべ、みちがえるほど商品が充実していった。

 なにかほしいものがみつかりそう。そんな、お客さんがわくわくできるお店へ一歩近づいた……ような気がする。


 土曜日十一時の開店と同時に高校生ふたり組の女の子は来店し、私としろくんが出むかえる。

 その日は、開店前から常連の西村さんがレース糸を買いにきていた。染め糸の部屋のテーブルで、家にかえらずそこで作業していた西村さん。お年寄りは、朝が早い。十一時の開店が待てないのだ。そういう時は、開店準備をしながらむかえることにしている。


 靴ぬいで入るお店、おもしろい。という女の子たちの声に気づき、小柄な西村さんの丸っこい背中がふり返る。


「いやー、かいらしお客さんやんか。この店にはめずらしい」


 その声を聞いて、ふたりは恥ずかしそうにしていた。


 お店の前で会ったのは、ショートの髪のちょっとボーイッシュな花菜はなちゃん。こういうのが好きな友人と花菜ちゃんがいったのは、真っすぐなつやつや髪がきれいな花音かのんちゃんだった。


 ふたりは、『かわいい、かわいい』を連発しながら、私が仕入れた紙ものをみていた。高校生にはしぶいかなと思ったけれど、大量に仕入れてよかった。


 今日は宣伝効果なのか、ほかにもお客さんがやってきた。私と年齢がかわらないぐらいの女性。開け放った格子戸から中をのぞき、他にお客さんがいることを確認すると、ホッとしたように店内に入ってきた。

 町屋の中のアンティークがめずらしいのか、キョロキョロしている。そのたび、巻き毛の長い髪がゆれた。花柄のワンピースも清楚で、とても上品な雰囲気の人だった。


 西村さんの相手をしていると、アンティークの部屋からしろくんがこちらにやってきた。


「あの子たちが、何か聞きたそうです。僕、ああいう若い子って苦手なんですよね。小さい頃からかわいいとかいって、いじられてきたので」


 そう小声でボソボソいう。若い子に、私ははいらないのだ。しろくんにとって私の存在はお姉さんなんだと再認識した。


 しろくんと交代してアンティークの部屋へいき、ダブルはなちゃんに声をかけた。


「何か聞きたいことありますか?」


「あーあ、あのかわいいお兄さんいってしもた。残念」


 かくすどころか、あけすけなボーイッシュな花菜ちゃんのもの言いに、思わず吹き出した。


「ごめんね、あのお兄さん恥ずかしがり屋なの」


 そういうと、ふたりはそろって、こそっと「かわいい」とまたいう。

 笑っていた髪の長い花音ちゃんが、古い楽譜を手にもって真剣な顔をして聞いてきた。


「あの私、美術部なんですけど、今度コラージュつくるんです。この楽譜かわいいな思うけど、ちぎったりしたらもったいないですよね」


 花音ちゃんは、美術部か。私も美術部だった。コラージュ作品、そういえばつくったな。なつかしい。


「コラージュは、アナログ? それともデジタル?」


 アナログだと、答えがすぐに返ってきた。


「じゃあ、カラーコピーしてつかったらどうかな。そしたら、おしげもなく使えるよ。コピー紙がテカテカしてたら、インスタントコーヒーを水でといてぬると、それっぽく見えるから」


 私のアドバイスに、顔をパッとかがやかせる花音ちゃん。


「ほんまや、コピーしたらええんや。わーいいこと聞いた。ありがとうございます」


 コラージュをするなら古切手はどうか、と切手の入った小引き出しを花音ちゃんにみせていると。


「この古い鍵、ちょーかっこいい。革ひもついてるの、このひとつだけですか」


 花菜ちゃんがプリンタートレイの中の鍵を手にしていた。見本としてひとつだけ革ひもを通してかざっておいたのだ。


「気に入った鍵があったら、それに革ひもサービスでつけてあげるよ。ペンダントでもキーホルダーの長さでも」


「やった。うれしい! どれにしよ」


 ふたりはアンティークの部屋を物色し終わると、今度は染め糸の部屋へ移動した。


 壁一面の染め糸を、きれいだから写メにとりたいといわれ、私は快諾した。こういう子たちがSNSで発信することも、宣伝になるとしろくんに前もって聞いていた。

 お店の宣伝で、私も先日SNSをはじめたばかり。


 きゃーきゃー騒いでる声が少々うるさいので、作業の邪魔になるのではないかと、ちらりと丸い背中をみる。西村さんの相手をしていたしろくんは、逃げるようにアンティークの部屋に移動していた。


 私がみていた背中が、くるりと反対になり西村さんのしわにうもれた細い目が、少しだけみひらかれた。


「お嬢ちゃんたち、ちょとおいで」









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