『小学句読』序④(第4ページ・旧・自由訳)

【 書き下し 】

【 『小學句読』 】

 不幸ふこうにしてときわざれども


【 『示蒙句解』 】

 不幸ふこうとはさいわいあらざるぞ、たるもの不幸ふこうにして道化どうかのおこなわるるときにあわずともなり。


【 『小學句読』 】

 なおまさぞくたがって


【 『示蒙句解』 】

 とき風俗ふうぞくにたがいてなり、


【 『小學句読』 】

 聖人せいじんみちまなんで


【 『示蒙句解』 】

 聖人せいじんみちをまなぶは、すなわ実学じつがくなり


【 『小學句読』 】

 もっさんとす。


【 『示蒙句解』 】

 ひと萬物ばんぶつにすぐれたれども、みちをしらざるときは、禽獣きんじゅうにちかし、ただみちをまなびてのちに、よく成就じょうじゅして、まったひととなるなり。


【 『小學句読』 】

 さいわいにしていま道化どうかまささかんなるにう。


【 『示蒙句解』 】

 これよりしたは、そのかみ道化どうかさかんなることをう。


【 『小學句読』 】

 小學しょうがくあっもっはじめをし、


【 『示蒙句解』 】

 小學しょうがくおしえありて、みちをまなぶのはじめ成就じょうじゅ


【 『小學句読』 】

 大學だいがくあっもっおわりを


【 『示蒙句解』 】

 大學だいがくおしえありてみちをまなぶのおわり成就じょうじゅす。


 ………

【 訳 】

【 『小學句読』 】

 不幸にして時に逢はざれども


【 『示蒙句解』 】

 不幸とは幸いがないことである。士たる者、不幸にして、道化のおこなわるるときに、あわずともということである。


【 『小學句読』 】

 まさぞくたがって、


【 『示蒙句解』 】

 時の風俗にたがってということである。


【 『小學句読』 】

 しかして聖人の道を学んで、


【 『示蒙句解』 】

 聖人の道をまなぶということは、つまり実学になる。


【 『小學句読』 】

 以てその身を成さんとす。


【 『示蒙句解』 】

 人は万物よりすぐれているけれども、道を知らない時は、禽獣に近いのである。ただこの「道」を学んでのちに、よくこの身を成就して、全き人となるのである。


【 『小學句読』 】

 幸いにして今の世、道化 まさに盛んなるに


【 『示蒙句解』 】

 これより以下は、そのかみ(その時代か)道化の盛んであることをいうのである。


【 『小學句読』 】

 小学有って以て始めを成し、


【 『示蒙句解』 】

 小学の教えありて、道を学ぶの始めを成就す。


【 『小學句読』 】

 大学有って以て終はりを成し、


【 『示蒙句解』 】

 大学の教えがあって道を学ぶの終わりを成就するのである。


 ………

【 書き下し 】

【 『小學句読』 】

 選挙せんきょみちあっ


【 『示蒙句解』 】

 せんは、えらむ、きょは、あぐるなり。才徳さいとくあるものをえらみあぐ、これ科挙かきょほうなり。まづ天下てんか国中くにじゅう郷里きょうりに、おのおの挙主きょしゅ官人かんじんありて、学者がくしゃ科挙かきょおうじてものをあつめ、経義けいぎ論策ろんさくだいをいだし、面々めんめんのおもはくを、文章ぶんしょうにかかせて、がくこころみ、しなをさだむ。これ郷試きょうしい、のすぐれたるを、えらみとりて、京都きょうとへすすむるを郷貢きょうこうと云う。内裏だいりにてまた省試せいし殿試でんしありて、郷貢きょうこうをえらみあげ、官職かんしょくをさづけらるるなり。


 ………

【 訳 】

【 『小學句読』 】 選挙のみち有って、


【 『示蒙句解』 】 選は、選ぶ、挙は、あげるである。士の才徳あるものをえらびあげる、これは科挙の法である。まず天下国中の郷里に、おのおの挙主の官人があって、学者の科挙に応じてくる者を集め、経の(いみ)、論策(策を論ず?)(それぞれ)の題をだして、面々のおもわくを文章にかかせて、その学問を試み、そのしな(品、つまり程度か)をさだめるのである。これを郷試といい、そのすぐれたものをえらびとって、京都みやこへすすめることを郷貢という。内裏だいりにて又省試、殿試あって、郷貢の士をえらびあげ、官職をさずけられるのである。


 ………

【 書き下し 】

【 『小學句読』 】

 でてまなところおこなってもっひとおよぼす


【 『示蒙句解』 】

 にいでみやづかえして、しょうだいがくにてまなびたるところを、おこないいだして、人民じんみんおよぼすなり。けだしすでにおのれをおさむるときは、すなわまたひとをおさめてこれをやすんじ、これをおしえること、学者がくしゃこころざところなり。


 ………

【 訳 】

【 『小學句読』 】

 出でて学ぶ所を行ってもって人に及ぼす


【 『示蒙句解』 】

 世にいで宮仕えして、小大の學にてまなんだところを、おこない、いだして、人民におよぼすのである。おもうに既に己を修めたときは、そこでまた人を修めてこれをやすんじ、人を教えることが、学者の志すところである。


 ………

【 書き下し 】

【 『小學句読』 】

 なんぞまたまな所以ゆえんおもわざらんや


【 『示蒙句解』 】

 道化どうかのさかんなること、かくのごとくなるに、なんぞ聖道せいどうのまなびようを、おもわざるぞや


 ………

【 訳 】

【 『小學句読』 】

 なんぞまた学ぶゆえんを思わざらんや。


【 『示蒙句解』 】

 道化のさかんなること、このようであるのに、どうして聖道のまなびかたを、思わないでいられようか。


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