『小学句読』序③ (第3ページ・旧・自由訳)

【 書き下し 】

【 『小學句読』 】

 道化どうかたすくることきことをうれえるなり


【 『示蒙句解』 】

 道化どうかとは、道徳どうとくもつて、人民じんみん教化きょうかすることをう。


 たるもの実学じつがくをわすれて、空文くうぶんにはせたるは、これをあげもちいて、官職かんしょくをさづくれども、きみ道化どうかまつりごとの、たすけとなることなきゆえに、これをうれえとせらるるなり。


 ………

【 訳 】

【 『小學句読』 】 以って道化をたすくること無きことを憂う


【 『示蒙句解』 】道化とは、道徳をもって、人民を教化することをいう。


 士たるものが、実学をわすれて、空文にはせたとしたら、これをあげ用いて(採用して)、官職を授けたとしても、君の道徳を教化する政治の、助けとなることがないために、これを憂えられたのである。


 ………

【 書き下し 】

【 『小學句読』 】

 また概然がいぜんとしてしょう相国しょうこくことしかりとし、


【 『示蒙句解』 】

 概然がいぜんとは、なげくことばなり。これ、ほめてなげくぞ。


 しょうしょうあざな弘載こうさい明朝みんちょう三元さんげん及第きゅうだいす。つかえて宰相さいしょうとなる。しゅつして文毅ぶんぎおくりなす。相国しょうこくとは、宰相さいしょうのことなり。


 こととは、商輅しょうろ憲宗けんそうたてまつりし奏状そうじょうに、天下てんか学校がっこう生徒せいとをして、はじめにまづ朱子しゅし小學しょうがくしょをまなばしめらるべしと、もうしけることなり、これをしかりとすとは、臣下しんか奏聞そうもんすることを、げにもこうあることとて、したがえることばなり。


 ………

【 訳 】

【 『小學句読』 】また慨然として商相国の言をしかりとし


【 『示蒙句解』 】慨然とはなげく言葉である、これは褒めかつ嘆いているのである。


 商は姓で名前はである(つまり商輅)、字は弘載こうさい、明朝の時代に三元及第した(科挙の3つのレベルでの試験で首席通過したことを指す、元ははじめなどの訓があるが、一番とここでは取っていいのでは、3回1番になったということではないか)、仕えて宰相となった。しゅつして「文毅」というおくりなが贈られた。


 相国とは宰相のことである。言とは、商輅宰相が憲宗に奉りし奏状(奏上した文書であろう、状には文書の意味がある)に、天下の学校の生徒をしてはじめにまず朱子の『小学』の書を学ばせられるべきである、と申し上げられたことである。これをしかり(兪)とす、とは、臣下の奏聞することを、「げにもこうあること」とて、お従いになったお言葉である。


 ………

【 書き下し 】

【 『小學句読』 】

 天下てんかみことのりすらく


【 『示蒙句解』 】

 みことのりは、天子てんしのおほせらるることばなり。


 これ憲宗けんそう学者がくしゃ実学じつがくをわすれて、空文くうぶんにはするをうれへ、また商相国しょうしょうこくこともちいらるるによりて、みことのりくだるなり


 ………

【 訳 】

【 『小學句読』 】天下の士に詔すらく


【 『示蒙句解』 】みことのりは天子の仰せられる言葉である。これは憲宗が、学者の実学を忘れて、空文にはせることを憂えられ、また商相国の言葉を用いられたことによって、この詔が下ったのである。


 ………

【 読み下し 】

【 『小學句読』 】

 みなこと小學しょうがくしたがって


【 『示蒙句解』 】

 従事(ことしたがう)とは、ことにつきしたがいて、これをつとむるなり、は、天下てんかたるもの、みなまづ小學しょうがくおしえにつきて、まなぶべしとなり。


 小學しょうがくみちは、灑掃さいそう応対おうたい進退しんたいせつしんあいし、ちょうけいし、をたつとみ、ともにちかづくのるいにあり。


 しょ小學しょうがくしょなり。 


 ………

【 訳 】

【 『小學句読』 】みなず、事に小学に従って


【 『示蒙句解』 】事に従うとは、その事につきしたがいて、これをつとむる(励む、努力する)意味(義)である。いう意は、天下の士たるもの、みなまず小学の教えにつきて(努力し)、学ぶべしということである。


 小学の道は、灑掃応対(灑掃とは掃除のこと、応対とは受け答え、生活の基礎となる技術を指す)、進退の節(進む、退くの二つの行為、節とは、節度があり、適切であることを指す、親、上司、などに呼ばれ、その様子を見て進んだり、退いたりする作法を指す)、しんを愛し(親ではなく「しん」とふりがなあり、つまり親族に親しむことを指す)、ちょうを敬し(君長から目上のものまで広い範囲を指している)、師をたっとみ、友に近づく、などの類(項目)にある。


 その書は朱子の小学の書である。


 ………

【 読み下し 】

【 『小學句読』 】

 しかしてのち大學だいがくすすめと


【 『示蒙句解』 】

 大學だいがくは、大人たいじんがくなり、大人たいじんのまなぶところことおほいなるゆえに、大學だいがくう。


 みちは、明徳めいとくあきらかにし、たみあらたにして、至善しぜんとどまるにあり。これ三綱領さんこうりょうとして、うちまた八條目はちじょうもくあり、しもぶんつまびらかなり。


 しょすなわいにしえ大學だいがくしょなり。はまづ小學しょうがくをまなびて、さてのちにすすんで大學だいがくをまなぶべしとなり。


 ………

【 訳 】

【 『小學句読』 】しかして後に大学に進めと。


【 『示蒙句解』 】大学は大人の学である。大人の学ぶところは、そのことが大きいために、大学(大きい学問)という。


 その道は「明徳を明らか」にし、「たみをあらた」にして、「至善にとどまる」ことにある。この3つ「明明徳」、「親民(新、ここの親はあらたにす、という意味であるとされる)」、「止至善」、を三綱領として、その綱領のうちにまた八条目がある(八つの条目が三つの綱領から派生する)。(それらについては)以下の文に詳しい。


 その書(『大學』)はすなわちいにしえの大学の書である。いう意味はまず小学を学びて、それから後にすすんで大学を学ぶべきである、ということである。


 ………

【 書き下し 】

【 『小學句読』 】

 於乎あゝ


【 『示蒙句解』 】

 なげく詞なり。これもほめなげくなり、これより(した)は、人に空文をすてて、実学をつとむべきよしを、すすめとく。


 ………

【 訳 】

【 『小學句読』 】於乎ああ


【 『示蒙句解』 】なげく言葉である。これも褒めて嘆くのである。これより以下は人に空文を捨てて、実学をつとむべき理由をすすめといている。

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