【　書き下し　】

【　『小學句読』　】

　昔（むか）し二帝（にてい）三王（さんおう）

【　『示蒙句解』　】

　此（この）の序（じょ）、はじめに、小學（しょうがく）の書（しょ）の、世（よ）におこなわるるよしをとく。二帝（にてい）とは、帝（てい）尭（ぎょう）・帝（てい）舜（しゅん）なり、三王（さんおう）とは夏（か）の大（だい）禹（う）・商（しょう）の成湯（せいとう）・周（しゅう）の文王（ぶんおう）武王（ぶおう）なり。皆（みな）聖人（せいじん）にして、天下（てんか）に君（きみ）たり。

　………

【　訳　】

【　『小學句読』　】　昔、二帝三王

【　『示蒙句解』　】　この序は初めに、小学の書の世に行われる理由を説いている。二帝とは、帝・堯（ぎょう）、帝・舜（しゅん）である。三王とは、夏の大禹、商（殷）の成湯、周の文王、武王である。皆、聖人で天下に君となった。

　………

【　書き下し　】

【　『小學句読』　】

　我（わ）が朝（ちょう）、一祖（いちそ）四宗（よんそう）の道統（どうとう）、

【　『示蒙句解』　】

　我朝（わがちょう）とは、陳選（ちんせん）そのかみの明の本朝を云（い）う。我（わが）とは、したしみて云（い）う詞（ことば）なり。

　一祖（いちそ）四宗（よんそう）とは、明（みん）のはじめより、代々（だいだい）の天子（てんし）の廟号（びょうごう）なり。

　始（はじ）めて天下（てんか）を取（と）りたるを祖（そ）と云（い）い、これにつぎて天下（てんか）を治（おさむ）るを宗（そう）と云（い）い、一祖（いちそ）は太祖（たいそ）、姓（しょう）は朱（しゅ）、名は元璋（げんしょう）、四宗（よんそう）は、一（ひと）つに太宗（たいそう）、名（な）は棣（てい）、太祖（たいそ）の子（こ）、二つに仁宗（じんそう）、名（な）は高熾（こうし）、太宗（たいそう）の子（こ）、三（みっ）つに宣宗（せんそう）、名（な）は瞻基（せんき）、仁宗（じんそう）の子（こ）、四（よっ）つに英宗（えいそう）、名（な）は祁鎭（きちん）、宣宗（せんそう）の子（こ）なり。

　道統（どうとう）とは、統（とう）はつづく義（ぎ）なり。聖人（せいじん）の道（みち）をうけつたうる統系（とうけい）を云（い）う。明朝（みんちょう）の一祖（いちそ）四宗（よんそう）は、天子（てんし）なれども聖人（せいじん）にあらず、されども時代（じだい）の君（きみ）をあがめて二帝（にてい）三王（さんおう）より道統（どうとう）、相（あい）つづけるようにいうぞ。

　………

【　訳　】

【　『小學句読』　】我が朝、一祖四宗の道統を

【　『示蒙句解』　】我が朝とは、陳選がその昔の明の本朝をいう。「我が」とは親しみていう言葉である。

　一祖四宗とは、明の初めより、代々の天子の廟号のことである。

　始めて天下を取りたるを祖という。これに次ぎて天下を治めるを宗という。一祖は太祖、姓は朱、名は元璋（げんしょう）、四宗は、一つに太宗、名は棣（てい）、太祖の子、二つに仁宗、名は高熾（こうし）、三つに宣宗、名は瞻基（せんき）、仁宗の子、四つに英宗、名は祁鎮（きちん）、宣宗のこのことである。

　道統とは、統はつづくという意味で、聖人の道を受け伝える統系をいう。

　明朝の一祖四宗は天子ではあるが、聖人ではない。そうではあるけれども、その時代の君をあがめて二帝三王より道統が相いつづいたように言ったのである。

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【　書き下し　】

【　『小學句読』　】

　聖天子（せいてんし）既（すで）に之（これ）を承（う）け玉（たま）う

【　『示蒙句解』　】

　聖天子（せいてんし）とは聖徳（せいとく）の天子（てんし）なり、陳選（ちんせん）、其（そ）の時（とき）の天子（てんし）をさす。其（そ）の名（な）は見深（けんしん）、後（のち）に憲宗（けんそう）と号（ごう）す、英宗（えいそう）の子（こ）なり。

　聖（せい）とは、これもあがめて云（い）うぞ。聖人（せいじん）は必（かなら）ず天命（てんめい）をうけて天子（てんし）となるものなればなり。天子（てんし）とは、帝王（ていおう）の爵位（しゃくい）なり。天（てん）より命（めい）ぜられて、人民（じんみん）をおさむ、天（てん）の子（こ）たるの道（みち）あればなり。

　之（こ）れとは、道統（どうとう）をさす。云（い）う意（い）は、昔（むか）し二帝（にてい）三王（さんおう）より我朝（わがちょう）の祖宗（そそう）につたわれる道統（どうとう）を、今（いま）の聖天子（せいてんし）すでにうけつぎて、位（くらい）にましますとなり。

　………

【　訳　】

【　『小學句読』　】　聖天子既にこれを継承し、

【　『示蒙句解』　】　聖天子とは聖徳の天子である。陳選は、その時の天子をさしている。その名は見深（けんしん）、後に憲宗と号した。英宗の子である。聖とはこれもあがめて言ったのである。聖人は必ず天命を受けて天子となるものだからである。

　天子とは、帝王の爵位である。天より命ぜられて、人民をおさめる、天の子である道があるからである。「これ（之）」とは、道統をさす。いう意味は、昔、二帝三王より我が朝につたわれる道統を、今の聖天子はすでに受け継いで、位にいらっしゃるということである。

　………

【　書き下し】

【　『小學句読』　】

　士（し）或（あるい）は実学（じつがく）を遺（わす）れて

【　『示蒙句解』　】

　士（し）とは、さむらいなり、学（まな）びてみやづかふる者（もの）を云（い）う、即（すなわ）ち学者（がくしゃ）のことなり。

　実学（じつがく）とは、実（じつ）はまことなり、人倫（じんりん）をむねとして、理（り）をきわめ、身（み）をおさむるを、実学（じつがく）と云（い）う。

　………

【　訳　】

【　句読　】士、或いは実学をわすれ

【　示蒙句解　】士とは、侍（さむらい）である。学びて宮仕えする者を言う。すなわち学者のことである。実学とは、実は「まこと」である。人倫を主として、理を窮め、身をおさむるを、実学という。

　………

【　書き下し　】

【　『小學句読』　】

　空文（くうぶん）に騖（は）せ

【　『示蒙句解』　】

　空文（くうぶん）とは、空（くう）はむなしきぞ、実（じつ）の字（じ）に対（たい）して云（い）う、むなしき文章（ぶんしょう）のみを、よみおぼえ、かきならいて、身（み）のため世（よ）のために、実用（じつよう）なきぞ。

　されども科挙（かきょ）に応（おう）じて、官途（かんど）にすすむためには、文章（ぶんしょう）の學（がく）たよりよき故（ゆえ）に、人（ひと）皆（みな）これにはせおもむきて、つとむるなり。

　………

【　訳　】

【　『小學句読』　】空文に騖（は）せ

【　『示蒙句解』　】空文とは、むなしきことである。「実」の字に対して言ったのだ。むなしい文章のみを、よみおぼえ、かきならって、身のため世のために、実用がないことである。そうではあるが科挙に応じて官途にすすむためには、文章の学問は都合がいいがために、人はみなこの学問にはせおもむきて、つとめるのである。