おれには口がある、それでもおれは叫べない

Phantom Cat

*

 突然だが、おれは生首である。


 死んでいるわけではない。病気で肉体がボロボロになったので、首から下を切除しただけだ。と言っても酸素やら栄養やらを含む人工血液が強制循環されているので、意識は普通にある。もちろん口も声帯もある。


 だけど。


 おれは喋ることができない。なぜか。


 みんなも生首になってみればわかる。そもそも、人間はどうやって声を出しているのか。


 声は声帯の振動が空気に伝わり口から出たものだ。そして、声帯を振動させているのは……肺から送られてくる空気。そして、その肺から空気を絞り出すのが、外肋間筋と横隔膜。


 そう。


 人間が声を出すためには、少なくとも胸から上が絶対必要なのだ。だけど、生首のおれには、声帯はあっても胸部がない。というわけで、おれは全く声を出すことができない。ただ口と舌を動かせるだけで、ささやくことすらできないのだ。


 フィクションの世界ではこのような状況の生首が平気で喋っている。具体的には、20世紀末の映画で、火星人が攻めてくるっていう作品の中にそんなシーンがあった。今から考えれば大ウソもいいところだ。


 それから、生首とは直接関係ないけど、昔のマンガで後に映画化もされた、寄生生物に頭部を乗っ取られた人間が人間を襲って喰う、という作品がある。まあ、寄生生物に乗っ取られた人間が喋るのは別にいい。首から下は人間そのものなんだから。だけど、その作品の主人公には、頭部ではなく右手に寄生生物が宿っていて、その右手に口があり、普通に喋っているのだ。


 ……どうやって?


 まったく、みんな、口さえあれば喋れる、って思ってんだろ?


 生首のおれは、声を大にして言いたい。叫びたい。叫べないけど。


 それでも、ここで声なき叫びを上げさせてもらいたいと思う。






「生首は喋れねえよ! 口はスピーカーじゃねえんだよ! 声帯に空気を送ることが出来なきゃ、声を出すことすらできねえよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おれには口がある、それでもおれは叫べない Phantom Cat @pxl12160

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ