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 買い物を終えた僕らは再びフードコートでお喋りに興じていた。元々、同じ部活であり、集まる機会も多かった僕らの話は弾んでいた。

 僕にとっても、彼らと過ごした時間は心地良かったし、妙な安心感もあった。

 僕は彼らの会話を聞いて、相槌を打つのが好きだった。話の中心に僕はいない。そのことがなんだか心地よかった。

 僕がいなくても、このグループは上手く回るのだろうという安心感を覚えるときがある。

 至極当然のことを、スケールを変えながら確認している。

 世界には多くの人がいて、僕の代替人もいて、僕が欠けたところで世界は変わらずに回る。

 そのことを再確認するたびに、僕はなんだか嬉しくなる。

 今日だって、きっとそうだった。

 たまたま、黒川が僕を誘ったから、結果的に四人で遊んだだけだ。黒川が別の友人を誘っていたところで、四人で遊ぶという展開はさほど変わらなかっただろう。

 黒川がおもむろに僕に話を振った。

「結局、文弥は何を買ったの?」

「倉科に選んでもらった服と、ピアス」

 ピアスという単語に、神谷と倉科が反応する。

「ピアス穴開けるの?」

「どうだろう。まあ、いずれは空けるのかな」

 あまり、深く考えていなかった。

「文弥がピアスつけてるの、想像できないね」

 神谷が笑った。それにつられて倉科と黒川も笑う。

「文弥くんは、チャラついた大学生というよりかは、真面目な大学生って感じですもんね」

「いや、案外地味な奴が大学生になるとハジケルのかもしれないだろ。大学デビューって奴よ」

 好き勝手に三人が言っている。僕はそれを聞きながら、言った。

「もしも僕が、大学で髪染めたりしたら、どう思う?」

 その言葉には意外にも重みがあった。

 カラッとした雰囲気が少し、湿り気を帯びる。

「あ、もしかして、大学デビュー本気で考えてる?」

 神谷の言葉だった。昨日のように、彼女の言葉が鼻につく。

「まあ、そういうのもアリなのかなって」

「文弥くんはしっかりお洒落をすれば、格好良くなると思いますよ」

 倉科の言葉に少し嬉しくなっている自分がいる。

「大学デビュー、するなら応援するぜ」

 黒川の言葉にはなんだか安心する。

 だが、神谷の言葉に対しては、いつも神経を研ぎ澄ませている。何かを言う度に、何かを警戒している。

 だが、ここで彼女は何も言わなかった。

 二人の言葉に軽く頷く。

 話も別の話題に移り変わった。

 大学デビューの話に拘泥するのは僕だけだ。それはずっとそのまま。僕だけが取り残されている。


 無言の圧など無い。

 受け取り手が、勝手に空気を察した気になって、ただ気まずくなっているだけだ。

 そういう風な考え方もある。

 僕は確かに何かを感じていた。今さっき、説明した感情ではなかったことは確かだ。

 僕が僕の感情を解った試しがない。

 解らない感情を置き去りにしたまま、僕は歩いていただけだ。大切に持ち歩くこともせず、おざなりにしながら、時は流れた。

 いつか分かると思っていた。

 大人になれば、答えを出せると思っていた。

 だけど。


 僕はもう、大人なのに——。


 未だ解を見つけられずにいる。

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