7
買い物を終えた僕らは再びフードコートでお喋りに興じていた。元々、同じ部活であり、集まる機会も多かった僕らの話は弾んでいた。
僕にとっても、彼らと過ごした時間は心地良かったし、妙な安心感もあった。
僕は彼らの会話を聞いて、相槌を打つのが好きだった。話の中心に僕はいない。そのことがなんだか心地よかった。
僕がいなくても、このグループは上手く回るのだろうという安心感を覚えるときがある。
至極当然のことを、スケールを変えながら確認している。
世界には多くの人がいて、僕の代替人もいて、僕が欠けたところで世界は変わらずに回る。
そのことを再確認するたびに、僕はなんだか嬉しくなる。
今日だって、きっとそうだった。
たまたま、黒川が僕を誘ったから、結果的に四人で遊んだだけだ。黒川が別の友人を誘っていたところで、四人で遊ぶという展開はさほど変わらなかっただろう。
黒川がおもむろに僕に話を振った。
「結局、文弥は何を買ったの?」
「倉科に選んでもらった服と、ピアス」
ピアスという単語に、神谷と倉科が反応する。
「ピアス穴開けるの?」
「どうだろう。まあ、いずれは空けるのかな」
あまり、深く考えていなかった。
「文弥がピアスつけてるの、想像できないね」
神谷が笑った。それにつられて倉科と黒川も笑う。
「文弥くんは、チャラついた大学生というよりかは、真面目な大学生って感じですもんね」
「いや、案外地味な奴が大学生になるとハジケルのかもしれないだろ。大学デビューって奴よ」
好き勝手に三人が言っている。僕はそれを聞きながら、言った。
「もしも僕が、大学で髪染めたりしたら、どう思う?」
その言葉には意外にも重みがあった。
カラッとした雰囲気が少し、湿り気を帯びる。
「あ、もしかして、大学デビュー本気で考えてる?」
神谷の言葉だった。昨日のように、彼女の言葉が鼻につく。
「まあ、そういうのもアリなのかなって」
「文弥くんはしっかりお洒落をすれば、格好良くなると思いますよ」
倉科の言葉に少し嬉しくなっている自分がいる。
「大学デビュー、するなら応援するぜ」
黒川の言葉にはなんだか安心する。
だが、神谷の言葉に対しては、いつも神経を研ぎ澄ませている。何かを言う度に、何かを警戒している。
だが、ここで彼女は何も言わなかった。
二人の言葉に軽く頷く。
話も別の話題に移り変わった。
大学デビューの話に拘泥するのは僕だけだ。それはずっとそのまま。僕だけが取り残されている。
無言の圧など無い。
受け取り手が、勝手に空気を察した気になって、ただ気まずくなっているだけだ。
そういう風な考え方もある。
僕は確かに何かを感じていた。今さっき、説明した感情ではなかったことは確かだ。
僕が僕の感情を解った試しがない。
解らない感情を置き去りにしたまま、僕は歩いていただけだ。大切に持ち歩くこともせず、おざなりにしながら、時は流れた。
いつか分かると思っていた。
大人になれば、答えを出せると思っていた。
だけど。
僕はもう、大人なのに——。
未だ解を見つけられずにいる。
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