3
あの会話のあと、僕たちはカフェを出た。途切れ途切れの会話をよすがとして、家路に就いた。
正直、何を話したかは覚えていない。それほど、カフェでの対話が衝撃的だった。
単調な生活ルーティーンをこなし、自室に戻る。
何もする気になれず、ベッドに転がった。
僕の首を掻っ切ろうとした言葉の重み。
僕の言葉を、暗に虚ろだと断じたこと。
それらを無視することだって出来た。
神谷とは、べらぼうに仲が良い訳ではない。学校でもすれ違った程度では話したりしなかった。
天文学研究会でたまたま顔を合わせる頻度が他の人より高かっただけだ。それも、仲の良い黒川や、クラスメイトに比べると劣る程度の頻度だ。
かつての僕だったら、戯言だと。他人の言う事など所詮、僕の心の機微を分からないだろうと。そう根拠の無い確信を持てた。
今の僕はどうだ。
神谷の言葉に酷く動揺している。彼女の言葉が看過できない。
何だ。何が僕をざわつかせる。
お風呂上がりの火照った体とは対照的に、頭の中は冷え切っている。
その結果が、あの笑みか。
制御しきれずに暴れた感情を言語化出来ず、ぎこちない笑みで誤魔化した。
僕だって、仮面をつけているんだ。そんなことだってある。
分かりきったことを再確認して、心の安寧を図る。
無意識に歯噛みしていたことに気が付いたのは、その少し後だった。
バイブレーションの音で目を覚ます。
眩しい。
どうやら、寝落ちしてしまっていたみたいだ。不安定な意識の中、脱ぎ散らかしていた制服のポケットからスマートフォンを取り出す。
黒川から、着信があったみたいだ。
数秒前にコールを終えたらしく、間に合わなかった。続けざまにメッセージが送られてくる。
『明日暇?暇なら遊ぼうぜ』
とだけ。
既読をつけるか逡巡する。
見なかったことにして、再びベッドになだれ込む。片手に収まるデバイスから世界の片鱗を覗く。
世界の多くが卒業という日を祝し、喜びを噛み締めあっている。知り合いも散見される。これを見ても、僕の心は揺らがない。
スマホをベッド脇に置いて、明かりを落とした。
では、何故。
何故、僕はあんなにも動揺したのか。
その理由を、僕は未だ知らずにいる。
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