第2話これが普通

学園生活初日を終え、皆はグループをつくろうとヤッケになっていた。互いが自分を少しずつ隠しながら、頃合いを見て自分を曝け出していく。そのための土台を上手く作れるかどうかで今後の学園生活、そして将来まである程度決まってしまう。そんなものに興味は無い。それにまだ6歳でこんなことを考えているのは、数少ない頭のいかれた奴ぐらいだろう。みんなはこんな捻くれた考えなど持っていない。ただただ友達が欲しくて、ただただ誰かと笑ったりしたいだけなんだろう。なのに俺は・・・肯定しようとせず、否定するための材料を集めることにヤッケになった。本当はただただ友達が欲しくて、ただただ誰かと笑っていたくて、誰かと一緒にいたいだけなのに、その気持ちを表に出してしまえば自分が傷付くかもしれない。そんな考えをしていたら、心がどんどん臆病になっていた。誰かを頼る事も、誰かを信じる事もできなくなり信じられるのは・・・自分だけだ。特に何かあったわけじゃないが、記憶が無いだけかもしれない。どこからどこまでを覚えていて、どこからどこまで忘れているのかもわからない。「おい、何ボーッと歩いてるんだ。」考えても無駄なことを考えていると強い口調でそう言われた。あまり育ちが良くない奴なのだろう。そう思いながら顔を上げると、

中性的な顔立ちで銀髪、猫目の深く澄んだ青い瞳をした奴が立っていた。「また考え事か?兄貴」名前はカムイ、俺の妹だ。見てくれは最高かもしれないが性格がちょっとあれだ。「いや、かわいい女の子に話しかけられて浮かれていただけだよ。」俺が笑いながらそう言うと、引きつった顔で、「かわいい女の子?どんな子?同じクラス?具体的に何を話したの?」「同じクラスで、レネットって言う名前らしい。本当の名前かどうかは怪しいけどな。顔はお前の方がかわいいよ。」こういう時は、とりあえず褒めるのが一番だ。「かわいい?・・・そうか、そ、そんな事言われても嬉しくないもん。」妹が顔を赤くして睨んで来た。か、かわいい。顔は良いが男っぽい所もある妹に、不覚にもそう思ってしまった。「そ、それで?何を話したの?」何を話したのかも本当に興味があるみたいだ。俺は追い討ちを掛けるように、小声でこう言った。「後で話すよ。宿に帰ってから、二人っきりでゆっくりお話ししたいから・・・ね。」俺がそう言うと妹は、何かの感情が爆発しそうになったのをグッと抑えて「兄さん、ずるい。」と顔を真っ赤にして、ギリギリ聞こえるぐらいの小鳥のように弱い声でそう言った。俺はそんな妹を見て、かわいい、そしてちょろい、そう思った。「さあ、帰ろうカムイ。」「うん。」満面の笑みで返事をした妹を見て俺は、ずっとこんな時間が続けば良いな。妹と二人で世界中を旅して、いろんなところに行って、いろんな景色を見られたらいいな。そんなフラグにしかならないようなことを考えていた俺を見て、「何ニヤついてんだよ。バカ兄貴。」と妹が言いながら、手を軽く握って来た。俺も手を軽く握り返してまた、こんな時間が続けば良い。そう思った。そして、俺とカムイは手を繋いだまま歩き出した。訂正があった。信じられるのは自分だけと言ったが、カムイも少しは信頼している。少しだけ、だけどね。

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