4-104.首の皮一枚、地獄は続く

※今回も前回と同様、ヘルメス視点から展開されていきます。

※これは十月十三日の更新分となります。

待っていてくれた方、本当に申し訳ございませんでした!!!!!!!!



 三つ首から一転、一つ首となったケルベロスには、もう余裕などというものは感じ取れなかった。

ただ一柱。いや、一柱でも多く、飛び込んできた餌を喰ってしまおう。その気概だけが、どこまでも突き抜けて行動の全てを決定付けていた。


 知らぬ間に発動していた魔法により、緑一色で埋め尽くされていた眼前一帯。

その拡大率は他の魔法の比ではなく、見る見るうちに高い身長を誇るクロロンの全長を飲み込んでいった。

詳細は知り得ない。だが、何かが悪く作用してしまったせいで、身体が上手く使えなくなっていたのだろう。

僕が近寄った時、気が付けばもう緑煙の中で、担ぎ上げるにも手遅れな状態だった。

仲良くなれたと思えた矢先、自分ではどうしようもない状況に立たされることになるなんて……。もう最悪としか言いようがない。


 でも、首は後一つしかないのも事実だ。

僕達としても、一つ、二つと着実に魔法の出所を断っている自覚はあった。

緑煙を出す首を丁度運よく落とせていたことを視認できた時は、もう歓喜以外の何物でもなかった。

どこかもう勝ったも同然と、そう信じたい自分がいた。

最後の切り札的に行使されたであろう、緑煙の網にもかかることなく生還できた。これに自信をもたずして、どこに自信をもてばいい。


 これほど幾重にも塗りたくられた勝利の二文字が、未だ幻想の中で厳重に管理されている。

そう突き付けられたのは、僕がケルベロスの首を落とした直後だった。


――これで終わりだと思うでない。我は、既に布石はのだ。『地獄変球イーンフェルヌス=ムータティオ』!


 勢いよく飛び退いた筈の身体は、緑煙を離れた直ぐのところで、動けなくなってしまった。

何度後退しようと身体を捻ってもピクリとも動かない。

無詠唱で魔法を放つことは容易なことだ。魔法の上級者になればなるほど、魔法発動に必要な時間は少なくなっていく。

僕の場合、『無死ハルパー』のことで頭が一杯になって、耳が何も受け付けていなかった。

これが意味することの恐ろしさったら計り知れない。その無知の間に、何だって行動を起こすことができる。

その権利を手にした、最恐の悪魔という名の『神様』。もう絶望しかなかった。


 何が起こっているのか、僕の理解の及ぶところは何もなかった。

悔しさは己の未熟さに収束するのだろうが、やはり物が物だった。

ゼーちゃんは僕の生きがいなんだ。どうしたって簡単に割り切れるものじゃない。

死ぬことなんてあったら、僕はもう……。

滞ることなく沸き起こる、悲観の念がどこまでもどこまでも僕を圧し潰していった。

ただ一つだけわかることがあるとすれば、僕もクロロンと同じように緑煙に巻き込まれるということだけだった。

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