4-98.悪魔という名の『神様』の所業
※今回も前回と同様、アポロン視点から展開されていきますが、最後のパートのみ三人称視点となっています。
※これは十月七日の更新分となります。
待っていてくれた方、本当に申し訳ございませんでした!!!!!!!!
地獄の番犬ケルベロス。その姿は獣でありながら、『神様』の権能をもつという異質な存在として知られている。
普段は人畜無害な門番を演じ、やって来た咎人達を澄ました顔で眺めるだけ。
何か大きな動きを見せて恐怖心を煽ったり、罪の意識を膨れ上がらせたりして泣かせるなんてことはしてこなかった。
――そう、この獣が動いているところを一度たりとも見たことがなかった。
だが、断片的に聞く逸話の中で、地獄界から逃げ出そうとしている者、地獄界を破壊に導こうとする者、ケルベロス自体に危害を加えようとした者に制裁を下すと聞いたことがあった。
大きさを自在に変化させ、容赦なく喰らい尽くす三つ首の悪魔。
逸話自体の真偽は定かではないが、『今』眼前で獲物を見つけた蛇のような、獰猛な目線をしてきている以上、信憑性はあるように思える。
紛れもない事実が、覆しようのない現実が、正に目の前で顕現しているのだから、信じるなという方が無理があるだろう。
まさか、自分達がそんな風に扱われる日が来るとは夢にも思っていなかった。
もう間近に迫ってきたケルベロスと入場門。それぞれが現実から乖離した光景を創り上げており、夢であってほしいと切に願わせる禍々しさを秘めていた。
例えれば、それは
『幻の十一柱目』の潜在レベルで刷り込まれた正義感が、何が何でも動いてしまうように、と。
自分達の嫌悪の象徴が、自分達を襲い喰らわんとする化け物の容姿に似ていると来た。これほど、気味が悪く、最低な気分になることもない。
やがて、ケルベロスとの距離が、五メートルの範囲内にまで入った時、事は動いた。
『――お主らは、『オリュンポス十二神』であるな。我が名は、地獄の番犬ケルベロスだ。
主神の命令より、この門を通す訳にはいかない。引きさがってはくれないか? 我は、戦いを好まない』
脳内に響き渡る重低音。これはケルベロスの声なのか。
腹の底から痺れていくような感覚に、恐怖心は増長されていく。
きっとタナトスが『オリュンポス十二神』を自分達に仇なす存在として攻撃を仕掛けてくることを教えていたのだろう。
確かにそれは間違いではない。ケルベロス自体も戦いたい訳ではないようだ。
こちらだって穏便に済むならそっちの方が御の字ではある。だが、そうも上手くいきそうにない。
オレっち達の『目的』は、『
「ケルベロス、お前の提案は素晴らしいものだった。でも――」
『そうか、理解した。
ならば、もう何も要らなくなった――『
「何を――――ッ‼」
一瞬にして、視界が漆黒に閉ざされた。
何が起こっているのか、理解が追い付かない。何かを叫ぼうとしても、声が出せている気がしない。
存在すら知覚できなくなった広範囲に広がる闇の中、何か無性に腹が立ってきた。
――誰も何も言ってないだろ。いや、言ってるっす。言ってない。言ってるっすよ。五月蠅いな。全部、お前が悪いんだ。自覚もてよ。いやいや、オレっちは何も悪くないっすよ。その醜さが問題なんだ。何を言っているんすか。そもそも醜さは関係ないし、オレっちは醜いどころか気高いんすよね。お前はただただ汚らわしいけど。何だと、貴様。気高い奴はそんなこと言わないからな。学のないお前に教えてやるけど。そんなんだから、『支配』もロクにできないまま、無力さを痛感するハメになってんだよ。さっさと気付け。………………。おいおい、黙ってんのか。早く言い返してこいよ! …………クソ、殴り飛ばしてやるから、顔面覚悟しとけ。鼻の骨、へし折って使えなくなっても泣くなよ。お前ごときが殴り飛ばせる訳がないだろ。弱虫で、ドジで、間抜けで……。後はなんだ。お前ほど、愚かな奴には逢ったことがないよ、オレっちはさ。はぁ、そんなこと言っちゃっていいんすかね。『負け』が確定してる勝負だってのに。それはどっちの台詞だ? そっちに決まってんだろ。……あぁ、そうかい。いい、いいよ、勝手に言っとけ。直にこの拳でわからせてやるさ。どっちが上か下か、白黒はっきりつけようじゃないか。あぁ、なるほどね。勿論、望むところっすよ。ボコボコにして、その曲がった根性叩き直す。こちとら、殺してやるよ――。
『視界は零に、自らは自らとしての境界を失う、悪魔の魔法。
それぞれがそれぞれを貶し合い、憎しみ合い、殴り合う。行き着く先は――死という運命しかない。
ほら、聞こえてくるだろう。肉と肉がぶつかり合って、削れて剥がれて、骨さえも砕け散っていく音が』
×××
それは喰らった誰もが理解できない、暗黒の領域だった。
小さな半球形の中に閉じ込められた『オリュンポス十二神』一行は、何もわからないままに自己を卑下し、自傷行為を始めた。
ある者は殴打に殴打を重ね、ある者は魔法によって身体中から鮮血を滴らせた。
なす術など、存在しない。惨禍は彼らが死に絶えるまで続いていくのだから。
音もなく場違いに置かれた黒い半球形を、三つの口をそれぞれ間一文字に引き結んだまま、ケルベロスは静かに眺めていた。
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