『上界穿戦』編
4-96.■■の提案
※今回は、三人称視点から展開されていきます。
※これは十月五日の更新分となります。
待っていてくれた方、本当に申し訳ございませんでした!
本日はもう一話更新予定ですので、よろしくお願いします。
――時は遡り、いつの日か。二週間よりもずっと前のどこかを舞台に、ある者達が集まった。
夜、闇と影とが混じり合う空間で、一つの『答え』が完成に至ったのだ。
下界を人間の住処であるとするならば、『神様』達が暮らす天界、地獄界は総称して上界とでもいうのだろう。
そんな上界は下界と同等、いやそれ以上に大きな空間が広がる、ある種一つの世界だった。
世界が広ければ、それだけそこで暮らす生物、いや万物には多様な考えが生まれ得る。
だが、その本流に『神様』がいる以上、『神様』主体の考えが世論の基盤となるのは明白なことだった。
そんな中、それはそれは深い闇に包まれた夜の狭間に、宣言される主張があった。その声色は、怯えているのか、終始震えて聞こえた。
主張の根幹は、人類には理解しがたいものだろう。なぜ、どうしてと、ひたすらに疑問が浮かんで止まないだろう。
『神様』だからこその極端も、人類と同様、勿論零か百。
振り切れた選択にこそ、価値があると言わんばかりの暴論が、その一角に集まった『神様』達を騒がせた。
一柱は率直に切り捨てた。■■は狂っていると。また一柱はこうも述べた。それでもいいのかもと。
また別の一柱は、■■がそう言うならと肯定し、またまた別の一柱は、破壊を選ぶか、と空虚に呟いた。
そう、その『神様』が宣言したのは、突拍子もなければ、是と否とも言い難い提案だった。
事実、賛否の別れた紛議の末、一つの結論が導き出されることとなった。皆、納得した上での決断だった。
それぞれで上がる、疎らな拍手。見合わせる視線に、笑顔はなかった。
静かに頷いた首謀者の前に置かれた薄紙には――天界滅亡の提案に、可決の二文字が並んでいた。
×××
自由の利かなくなった二つの身体が、弱々しく痙攣を繰り返していた。
横に並べられた『神様』の姿は、正に滑稽そのもの。
どうしてか。その理由は明確で、それでいて不確定だった。
二柱は、一瞬の閃光が時間を引き裂いて、『答え』だけを体験してしまっているような感覚に陥っていた。
捕捉も抵抗も飛び越えて、ただ悔しい、申し訳ないという心境を抱えざるを得なかった。
やっとの思いで伸ばした腕が、何かを掴むことはない。無を空ぶって、直ぐに地面を感じてしまう。
強めに衝突した、手のひらが痺れを覚える。鋭敏化した感覚に、心が擦り減っていくようだった。
これが現実。これが実力。これが、任されたのに『負け』の烙印を押された現状だった。
声になり切らない声が、喉を静かに振動させていた。
――アスクレピオス、お前だけは絶対に許さない。
その気迫に満ちた表情が、全てを物語っていた。
やがて、命からがらで行ったゼウスとの通信を最後に、二柱の双眸は闇を示した。
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