4-91.『裏切り者』と『神議』(その十六)

※今回も前回と同様、ゼウス視点から展開されていきます。



 アルテミスは特に気負うこともなく、一週間の様子を答えていった。ただそこにも、安定した『答え』が見出せる訳ではなかった。

今日だけでもうここ百年分くらいの驚きを覚えたかもしれない。それくらい、予想外の事態は起こり続けていた。


――早速で悪いんだけど、ここから話していく『神様』達は、から、まとめてあたしが言っちゃうね。

あたし、アテナ、デメテル、ディオニュソス、あと――ヘルメスの計五柱は、皆ディオニュソスの部屋に集まってポセイドンのことを話し合っていたよ。ちょっとお酒でも飲みながら、ね。


――あ、私からちょっと捕捉。ヘルメスは幸福を司る『神様』じゃん?

だから、こんな状況でも少しでもいい思い出をつくろうって、笑顔の皆の様子を記録することを提案してくれたんだ。

それ、ヘルメス持ってるでしょ。見せてあげて?


――おう、任せとけ! ちゃんと持ってきた。

アーちゃんの助勢サポートもあって、綺麗にできてるよ。ほら、確かめてみて。


 円卓で展開されたのは、四角い紙に映し出された、共に時間を過ごす五柱の光景だった。

これは恐らく、ヘルメスとアテナの魔法を組み合わせて創造したのだろう。

過去の光景が、まるで現実かのように紙の中に再現されている。

言われた通りの面々、アルテミス、アテナ、デメテル、ディオニュソス、ヘルメスの五柱が酒を酌み交わしながら、何事かを話している様子が確認できた。

 でも、なんだろう。どことなく不可思議に思えてならない紙だ。

一見、皆真剣に話し合っているだけの、至って普通の光景に思えるが、何がおかしいというのか。


 あ、いや。違うか。いや。いやいやいや……まさかな。

『今』一つ、不和を感じる点といえば、どことなく配置がおかしい気がする。

不自然に空白が空いているような、目線が合っているようでいない『神様』もいるような……。


もしかして、いた筈の『神様』をのか。


 だとしたら、何故? そんな俺の疑問を知ってか知らずか、一気に顔を青褪めさせたのはアスクレピオスだった。

こんなに急速に外堀を埋められるとは思わなかったのだろう。

俺の見立てでは、アスクレピオスを怪しいと踏んでいるからそう見えるだけかもしれないが。


 と、その時。当事者、アスクレピオスは奇策とも取れる発言をカマしてきた。

先ほどとは打って変わり、生気を取り戻した表情を浮かべている。何かを思い付いたか、或いは――。


「アレス、嘘を吐いていますよね?」


「だよなァ。やっぱり突いてくると思っていたンだよッ!

そう、さっきのオレの話と矛盾が起きちまうもんなァ……! そう、オレァ、オレァ…………


 これは、まさかの展開だ。てっきりアスクレピオスがアポロンを陥れ、自分だけ権利を獲得したいのかと思っていた。

どうやら、また別の可能性が見えてきたらしい。どうしたものか、今度はアレスが『裏切り者』候補になるなんてな。

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