4-89.『裏切り者』と『神議』(その十四)

※今回も前回と同様、ゼウス視点から展開されていきます。



 一週間。あっという間の時間だった。

述べ三百戦近くの組手をぶっ通しでやってのける。字面だけでその狂気が伝わってくるようだ。

神種ルイナ』三柱分の権能は、完全に習得するには至らなかった。

だからこそ、一週間経って、こうして俺が外に出ていった『今』でも一人修行に励んでいるのだ。

何度も言うようだが、何の希望ももてない程絶望的な訳ではない。兆しは修行開始時から見て取れた。

投げ出さない限り、期待できる。ザビならきっと、間に合わせてくれる筈だ。


 俺達主体で世界を救えないことは、本当に申し訳ないと思っている。

世界の滅亡を救うことができるのは、『幻の十一柱目』だけしかいないのだ。

理由はそんなに複雑じゃない。


俺達の創った規定ルールが、世界観が、運命が――たった一つの鍵しか認めてくれないからだ。


 一億年前の呪いは、何よりも特殊で特別だった。

他のどんな呪いより段違いに強い縛りが設けられ、もう最早こちらからは完全体竜という装置の提供しか、させてもらえることがない。

完全体竜の権能は『神種ルイナ』、ひいては『神様』に由来するものだ。

そして、『幻の十一柱目』が呪いを打ち消すのは、対面した完全体竜が元にした『神種ルイナ』の呪いだけ。

一つ例を出すとすれば、弟の件が一番わかりやすいだろう。

ザビが王都で対峙したドラゴンは完全体呼思竜だった。その完全体呼思竜に殺されたからこそ、同じ権能である『呼思者』の弟の呪いが解けたのだ。


 因みに言うと、この世界で唯一、『幻の十一柱目』だけが他者の魔法を使うことができるのにも理由がある。

ただ、これはそんなに目を見張る大義が存在する訳でもないし、疑問にも挙がらなかったから、ザビとの会話では放置することにした。

 まぁ、どうしても死して生き返る過程を繰り返さざるを得ない『幻の十一柱目』への、せめてものお小遣いオマケのような気持ちで使えるようにしてあげた次第だ。

これが役に立っていてくれたようで、本当に良かったと思う――。


 とまぁ、ここまで講釈垂れてきたが、もう十分証言はできた筈だ。

神様俺達』の『答え』を提示し、『神種ルイナ』の正体、全貌を明かし、最後には今後の展望、と言うと語弊があるが、修行によってザビの『神種ルイナ』の権能を復活させるという高尚な一週間を送っていたことを伝え切ったと言えるだろう。

何なら『今』からここにザビを呼んでもいい。


 俺の言いたいことはただ一つ。いや、二つかな。

一つは俺が一週間、何かを裏で行うことなんてできやしないってこと。

そして、もう一つは、アポロンの言っていた『裏切り者』の正体がアスクレピオスの可能性が高いってことだ。

『四上種』のところで話していた通り、研究に一番の情熱を注いでいた『神様』こそ、アスクレピオスだったんだよ。

神種ルイナ』の研究が結ぶ未来が、破滅しかないと、絶望しかないと知りながら、迷わず突き進む道を選んだ。

そこまで統率が取れている訳でもないから、滅多なことは言えないが、俺からしてみれば怪しいに限る。

こちらからは以上だ。




×××




 ――長々と話してしまったが、これでアスクレピオスに懐疑の目が向けられることは避けられないだろう。

さて、アスクレピオス。ここに付け入る隙を見出していたようだが、

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