4-86.『裏切り者』と『神議』(その十一)

※今回も前回と同様、ゼウス視点から展開されていきます。



 そこからは自分が目覚める『神種ルイナ』が何であるのかの説明をせがまれたが、俺からはただ一言だけしか述べることはなかった。


――直にわかる。


 音にしてたったの六音。

その一点張りしか用意されていないことを理解したザビは、徐々に『神種ルイナ』の話から切り上げていった。

楽しみは取っておくべきだろう。まぁ、楽しんでいられるかはわからないが……。


「で、後は何だ? 何か言わなきゃならねぇことは残っているのか?」


 完全に諦めたザビ。話をまとめにかかろうとしている。

こちらとしても、そう長くは話し込んでいる訳にはいかない。ありがたく波に乗らせてもらおう。


「まぁ、もうそんなにはない。ざっくりと話していくが、もう個別に質問とかはないか?」


「あぁ、話聞いててなんか思い付いたら質問させてくれ」


「承知した。ずっと一人でぶつぶつ言っていた弟の救出の件から話そう。

確かネムちゃんが番を担当している『神種ルイナ』だったな」


「ぶつぶつってそりゃ……! あぁー、ネムちゃんってのはムネモシュネか?」


「そうだ。あの『神種ルイナ』は上から数えて『八柱目』、俺達から『四上種』と呼ばれている個体なのだが」


「あー、待て待て。知らない単語が出てきた。『四上種』ってなんだ」


「あぁ、知らなかったか。すまんすまん。

『四上種』は『神種ルイナ』最後の四柱の総称でな。

『八柱目』から『幻の十一柱目』までの四柱のことを指していると思っていてくれ」


「え、俺まで⁉」


「そう、ザビまでだ。

なんせ他の『神種ルイナ』より素体の脳を始めとしたあらゆる部位を食い尽くし、常人を遥かに超える力を引き出すことができるように改良されているのだからな」


「だから、覚醒してない状態でも、俺は何とかドラゴンとか『神様』とかと戦えてたのか」


「一概に言うこともできないが、まぁそんなところだ」


 自分で言っててとんでもないものを創っていたものだなと思ってしまった。

未来では創ることはないだろうが、現在進行形で生きている人類にとっては合わせる顔がない。ザビも恐らく――。


「へぇ」


 いや、軽い。そんなものか。『四上種』についても、疑問に思わなかったらしい。

普通、『七柱目』から『十柱目』の四柱を呼びそうなものを、ここでは『幻の十一柱目』までが範囲となっている。

この中に選ばれているのは、先ほど言った強さの面において『七柱目』までとは全く異なっていることが大きく関係している。


 それこそ、最初期の『一柱目』は一億年も前に創ったものだ。

だが、そこから、どんどん創っていく中で、変化が生まれ出す。それは思考面の変化と同時に、技術面での変化も見受けられた。

研究の過程の中で、一柱、二柱と完成し、七柱目まで完成した時には、一つの特異点を超えていたのだ。

『幻の十一柱目』までを含めた、後期四部作――『四上種』。

『庇死者』こそ、呪いを解くために四部作の中では一番早くに創ることになったが、他の三部作は断然遅くに創られることとなった。

それらは先の七部作を遥かに超える潜在能力を引き出し、圧倒的な破壊力を示した。そこまでの発達など求められていないのに。


 技術班、研究班は止まることを知らなかった。

多くの研究者が研究室に席を置いていたが、その中でも特に実力者として名高かったのが、『オリュンポス十二神』の候補神でもある元『カッパドキア十二神』――アスクレピオスだった。


「さて、話を戻そう。ここ数十年で飛躍的に研究が進歩して、完全体竜が『一千年』経たずして創造できるようになったんだ。

その期間、なんと『十年』! これでようやく残された『四上種』を早期に救うことができるようになった」


「すまねぇすまねぇ! またわかんねぇのが出てきたぜ。

完全体竜ってのは何なんだ? ドラゴンにも種類があんのか?」


「ザビ、お前結構知らなかったんだな。ここまで異常に知ってるから、もうあんまり話すことないかもって思っちゃってる節もあったよ。

何かと安心したな」


「……それは良かったが」


「はいはい、完全体竜ね。いいよ、教える。

ドラゴンには二分類ある。既出の完全体竜と、初出の複製体竜。両者には絶対的な差が存在している」


「絶対的な差?」


「能力に、『神様』と蟻くらいの差があるんだ。勿論、前者の完全体竜が『神様』の方ね」


「えぇと、これまで戦ってきたのって……」


「恐らく殆どが複製体竜だと思う」


「まじか……」


「まじだよ。さっきも言ったように、完全体竜が俺達の創造しているドラゴン

神種ルイナ』の呪いを解くために、『幻の十一柱目』を殺しに行かせているヤツだ」


「…………」


「あぁ、でもお前が弟を救ったのは、間違いなく完全体竜だった。

あの王都で対面したドラゴンを覚えているか?」


「……あの、ドラゴンか。エラーと一緒に倒したヤツ」


「そう。それで死んでくれたおかげで、弟の呪いは解けたんだ。

本当にありがとう。こちらからも心より感謝を」


「いや、あぁ。えぇと……。何て言うんだ、言葉にならない。

どうしてか、前が見えねぇ気ぃする。気のせいだよな、そうだよな。きっと気のせい……」


 早口で話し続けている姿に、何も言えなくなった。

あの時は倒したと思ったのかもしれない。でも、倒せなかった。死んでしまった。

相手は、完全体呼思竜。魔法は『回顧リコレクト』を使ったんじゃないだろうか。

効果で見たものは、一体何だったんだろうな。魔法を知っている『今』だからこそ、ザビは何もわからなくなるんだ。

こうやって、前さえも見えなくなってしまうのだから。

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