4-85.『裏切り者』と『神議』(その十)

※今回も前回と同様、ゼウス視点から展開されていきます。



 意味をなさない叫び声を繰り返すザビを、俺は静かに眺めていた。嬉しさもあるだろうが、きっと困惑も大きいのだろう。

そんなこと夢にも思っていなかっただろうし、無理もない。落ち着くまで暫くの時間を要しそうだ。


「はぁ……」


 一つ零れた俺の息にさえ噛み付くザビを横目に、後頭部をガシガシ掻いていた。


 そう言えば、ネムちゃんとの会話もこれが最後だった。創造してしまった『神種ルイナ』は、無闇矢鱈に殺す訳にもいかない。

殺せる手段は数あれど、救ってあげられる手段は一つたりともない。……本当にそうなのか。

ただ死にゆくのを待ち、世界の滅亡を確実に実行する起爆剤にしかなることができないとでも言うのだろうか。いや、そんなことは断じてない筈だ。

せめて落とし前は付けたい。まだ人類の行く末を見守っていたい。

過去これまでとは違う。未来これからはちゃんとこの二つの目で見届けてやる。

その思いから最後の『神種ルイナ』を創造した。


 現状、託せる希望はその一人だけ。自らの過ちを自らで解決するために、創造するに至った『幻の十一柱目』だ。

『幻の十一柱目』――『庇死者』は死して呪いを解く。世界との『つながりリンク』をなくすことで、害のない『神種ルイナ』とすることができるのだ。

呪いさえなければ、ちょっと強い『寄生種パラサイト』でしかない。戦いの中で、人類を引っ張っていく光にもなり得る。

副次的な影響ではあったが、事実この残された権能は大いに役立っていた。


 まさか、『死の救済マールム』がここまでの力を蓄え、こちらに迫ってくるとは思わなかった。

本当に、まさか、だ。天空二階層『英雄の領域』までもを占拠されてしまっていたとは夢にも思わなかった。

これは、見直しを余儀なくされるのも致し方ない。本当にどうしたものか――。


「おい、おーい! おい、ジジイ‼」


「あぁ⁉ 何言ってんだ、青二才! いきなりなんだって言うんだよ」


「ごめんごめん、あまりに聞いてくれねぇからよ。

てか俺、お前の名前聞いてないな。何て言うんだ?」


「あ、あぁ、言われてみれば言ってない……。すまない。俺も興奮していてついな。

俺の名前はゼウス。天界の王を名乗らせてもらっている、『オリュンポス十二神』の当主とでも言っておこうか」


「おう、そうか! 偉い『神様』っぽい覇気オーラは出てたが、俺疎くてよ。

まぁ、さっきから言ってくれてるから知ってるんだろうが、俺は」


「ザビだろ」


「被せてくんな」


「まぁ、いいじゃないか。仲良くやろう。ここから一週間は一緒に過ごすことになるだろうから」


「一週間?」


「それはおいおい、話させてもらうが」


「いや、待て。聞かせてくれ、そこまで言ったんなら!」


「えぇ」


「えぇじゃねぇ! ほら、渋ってないで早く言えよ」


「……むぅ、そこまでせがまれちゃしょうがない。特別に早く教えてやろう。

ザビ。お前には――脳に刻み込まれた『神種ルイナ』三柱分の能力を使うことができるようになるんだ。

ここで一週間過ごしてもらってな」


「…………はぁ?」


「そこは驚かないのか」


 少し前の反応とは打って変わった静かな様子に少々驚きながらも、新鮮な反応を楽しませてもらった。

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