4-83.『裏切り者』と『神議』(その八)

※今回も前回と同様、ゼウス視点から展開されていきます。



 話し始めてしまった以上、もう突っ走るしかないが、『今』提示する方向にある内容は二つ目の要点、『神種ルイナ』の存在についてとなっている。

何かが乗り移っているのではないかと錯覚されるほど、ザビの勘は鋭く、こちらが教える側なのに何度も助けられている現状だ。

こんなこと、全く予想していなかった。


 相手主導で進む議論の最中さなか、ある指摘を受け、確かにと腑に落ちた自分が情けなかった。

それは間違いなく正論で、事実と認めざるを得ない文句だったのだ。


――それって結局、『神様』の独善的な都合だろ?


 『神種ルイナ』の死が、ドラゴンによってのみ実現するということに対する、人類からの反応。厳しいなんて甘い考えは、決して許されたものではない。

やってきたことの重さ、大きさ。どれだけ人類が俺達の自分勝手な計画に、悩まされ、歩くことを強要され、命を賭してきたかが、嫌というほど伝わってきた。

寄生種パラサイト』であることは、無駄な死の抑止にはつながれど、結局はこっちの都合が最優先に考えられていた。

技術不足は言い訳にはならない。『神様』に暇な時間など、山ほどあるのだから。


「……ザビ、この世界の成り立ちを知ってるか?」


 少々、唐突と感じるかもしれないが、この問題は今後の話に深く関わってくる。ここは、不審と思われても付き合ってもらうより他にない。

真っ直ぐに認めた視線を飲み込むように上を向き、うーんと唸るザビ。

まぁ、突拍子もない、深淵片道切符が突然投げ付けられたんだ。無理もない。


 今度はこちらから言うしかないかな。そう早々に口を開こうとした次の瞬間、ザビは慌てて右手をこちらに突き出してきた。


「はっきり言って、流れがよくわからなくなっている自分もいる。でも、何となくはわかるぜ。

きっと何かの意味がある。だから、こうして突然に、前触れもなく切り出してきたんだ」


「すまん、ちょっといいかな、ザビよ。ここに来てからずっと様子がおかしいように思うんだが、気のせいか?

聞いていたより随分冷静だし、切れているように感じる」


 遂に耐え切れなくなって、聞いてしまった。こちらから始めておきながら、本当に申し訳が立ったものではない。

どことなくある違和感に、嘘偽りはない筈だ。本人から確認が取っておきたい。あわよくば、そのからくりを知っておきたいんだ。

でないと、何か喉の奥に魚の小骨が詰まったまま、会話に興じることになってしまう。そんなの気持ち悪いじゃないか。

俺は言っても至上神だ。世界を昔から『支配』してきた立場にいる。

多くの『神様』を始めとした万物を見てきたこともあって、目には自信があるんだ。

ザビは何かを隠している。これまでの経験則が、訴えてきて訴えてきて仕方がなかった。


 俺が疑い出した途端に、隠し部屋には独特な雰囲気が漂い始める。心なしか寒気さえ感じてきた。

そんな俺とは裏腹に涼しそうな顔を見せるザビは、さも当然のようにこんなことを告げてきた。


「あぁ、多分これはより大人な人格へと引っ張られつつあるからだと思うぜ?

ほら、俺ん中には、三人分の魂っつーか、三つの人格が一人の人間をやってるからよ」


「は?」


「え、知らねぇのか、『神様』なのに。なんか俺らとそう変わんないのかもしれないな。

俺達とは住んでる場所がちょっと高いくらいでよ」


「は?」


 この返答以外に『答え』らしい『答え』が浮かばなかった。この話までは、ネムちゃんをも触れてはいなかったのだ。

下界での監視、観察を行っているポセイドンもいない状態では、知る手段がなかった。いや、知ろうと思えば知れたのに見ようともしなかったんだ。

結局、力を信じ過ぎた『オリュンポス十二神』の敗北だった。

俺の知らない内に、『幻の十一柱目』は三つの魂を同居させながら生きるようになっていたらしい。混乱する頭は生まれてこの方、類を見ないほどに酷く痛んだ。

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