4-82.『裏切り者』と『神議』(その七)

※今回も前回と同様、ゼウス視点から展開されていきます。



 世界滅亡計画。『今』思い返せば、どれだけ己らが未熟で惨めな存在であったか、痛いくらいに理解できる。

そんなものを悪びれもせず、堂々と展開させていたとなれば、人類も良くは思ってくれないだろう。

弁明をしようにも、多くの犠牲を生み過ぎた。その最たる例であり、計画の根幹を担っていた内容こそ、『神種ルイナ』だったのだ。


「『神種ルイナ』。それは『神様』の権能を再現することを可能とした『寄生種パラサイト』のことだ。

シセル家の血筋にのみ適正があり、それ以外が宿主に選ばれてしまうと、頭痛や吐き気、眩暈や心臓発作、発狂などを伴いながら、死に至ってしまうという、恐ろしい呪いが付与されている。

その呪いは『神様』であってもかかってしまう、恐らく世界で一番強力な呪いなんだ。

だが、その呪いの本分は別にある。なぁ、ザビ。何か見当はついていないか?」


 急に振ってみた。

別に全てを話し尽くしてもいいが、自ら知りたいという欲が出ていた手前、自分で掴み取った真実というのも味があって良いのではないだろうか。

そんな、どこか親じみた行動を受け、顎を手で擦りながら、空を仰ぐザビ。

そして、ポツリと呟いた。それはどこまでも突拍子もなく、誰が何と言おうと正解のそれでしかなかった。


「呪い、『神種ルイナ』…………『幻の十一柱目』……世界滅亡計画、滅亡因子…………。

あぁ、まさか。いや、そうなのか。えぇっと、それってよ……死ぬことと関係してねぇか?

例えば、そう『神種ルイナ』が死ぬことで世界が滅亡する、とか」


 驚異的な発想力だ。正直、ここまで切れる奴だとは思っていなかった。

反応からして、きっと知らなかった。状況証拠だけでここまでもっていけるのは、流石としか言いようがない。


「まさか、言い当てられるとはな。こちらとしても驚かざるを得ないよ。

そう、『神種ルイナ』が死ぬと、十分の一の世界が滅亡するんだ」


「いや、でもよ。何かおかしくないか? 『神種ルイナ』は『寄生種パラサイト』だと言っていた。

なら、死にそうになった時、どうしたって他の生物へと乗り換えちまうもんじゃねぇのか?」


 おいおい、本当に冴えに冴えている。

俺には話しやすくてありがたいが、どうにも聞き及んでいたザビの人物像とは異なっているように思う。

まさか、別人? いや、そんなことはあり得ない筈なんだが。

……まぁ、『今』は気にしないでおこう。時間も限られている。


「うん、そうなんだ。だから、ドラゴンがいた。

ドラゴンとの対面時、『神種ルイナ』は潜在的な感情の植え付けによって、宿主を変更することができなくなっていてな。

……まぁ、考えてもみろ。自分達が大事に大事に育てていた野菜が、収穫の日に自分達より早く収穫する奴がいたらって」


「うんうん、って……ん?」


「つまりだ。俺達が世界を滅亡させるために組んだ計画なのに、勝手に滅亡させる装置を起動させて、誰とも知らない奴に滅亡を進められたら嫌だろって話だ」


「あぁ……」


「なんだ、その実のない返事は」


「いや、だって。それって結局、『神様』の独善的な都合だろ?

巻き込まれた俺達含めた万物が不憫だなぁと」


「……それは、そうだな。なんかすまん」


 至極当然に流れで謝っていた。

だが、もし仮に『寄生種パラサイト』でなかったとしたら、困るのは人類の方だ。

……などと、頭の中で声にならない反論を繰り返しながら、俺はまた更なる言葉を続けていった。

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