4-78.『裏切り者』と『神議』(その三)

※今回も前回と同様、ゼウス視点から展開されていきます。



 皆の注目を集めるのは、依然アポロンその『神様』だ。

ポセイドンが『オリュンポス十二神』を見限ったことを報告するだけでなく、他にも『裏切り者』がいることを示唆してきた。

そして、その暴露に対し、他の『神様』達が驚きを見せていたことから、アポロンだけがその情報を知っていたことが発覚した。

 ただ、知らなかったことにしておくことで、『裏切り者』が得をしてしまうという事実も否めない。

上位の『神様』相手に魔法の類は通用しないため、アポロンもしくは俺の使う『炯眼ペネトレイト』もこの場では無価値の判定となってしまう。

信用できる『神様』を考えるとしても、現状誰一柱も存在しないという八方塞がりの状態なのだ。


 さて、どうしたものか。

自ら口火を切った以上、俺主導で進行していくより他にないだろう。

『今』一番疑いを掛けられているアポロンから、この一週間にしていたことを話してもらおうか。

そこから他の仲間が捕捉したり、追従する動きが見られたりするかもしれない。


「ここは、アポロンからここ一週間を語ってもらう必要がありそうだ。

弁明の後、質疑応答、もしくは捕捉をしてもらいたい。アポロン、頼めるか?」


 アポロンは渋々頷く素振りを見せてきた。主張の強弱は関係ない。

ここは会話をしていくことに意味があるのだから。

一気にアポロンの顔に視線が集まっていく。


「ここ一週間っすか。さっきも言ってたけど、オレっちの部屋には、丸々一週間クロノスがいたんすよ。

二柱でポセイドンの思い出を無差別に共有しながら、過ごしていたって感じで……。これでいいっすか?」


「何か付け加えたいことがある者は挙手を」


 俺が言い終わるのを待っていたのか、部外者二柱組が勢いよく手を挙げた。

うむと一拍置いてから、まずは身分的にも上位に位置するアスクレピオスを指名する。

嬉々とした表情で会釈をしながら、ピシッとアポロンに向け指を伸ばした。

肩を大きく飛び跳ねさせたアポロンに、アスクレピオスはニヤリと口角を上げた気がした。


「あの、アポロンは嘘を吐いています。ここは断言させてください!」


「いや、ちょっと待てよ。オレっち嘘なんか!」


「静粛に! 『今』はアスクレピオスが話しています。

二つも耳が付いているんですから、上手に使ってください」


 少々、語気を荒げてしまったが、アポロンの動揺具合を見るに、この程度でも良いのかもしれない。

何を隠そう、アポロンは若干の狭窄状態に陥っていそうだった。こんなに取り乱すアポロンは見たことがない。

でも。ないよな。信じていいんだよな、アポロン。


――俺はこんなにもお前を信じたいのに、こんなにもお前を疑っている。


 アポロンの吐いているという嘘は一体何であるか。

想像などしたくもないが、俺はアスクレピオスに言葉の続きを求めるしかなかった。

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