4-76.『裏切り者』と『神議』(その一)
※今回は、前半三人称、後半ゼウス視点となっています。
何の変化もないままに、下界での騒動から一週間が経過した。
未だ微塵も生気の戻らない『金の領域』。
ポセイドンの裏切りは、超常的な力と存在感(カリスマ)で世界を意のままに『支配』してきた『オリュンポス十二神』に、深い傷を残していた。
そんな中、どこからともなく共有されるポセイドンとの思い出は、より一層彼らを苦しめた。
一体誰が見せてきているのだろうか。こんなことをすれば、立ち上がるのに必要な力が格段に上がってしまうのに。
でも、不思議と出てくるのは恨み節より涙だった。熱と輝きをもつ涙に、紅い絆の大切さをより強く痛感させられた。
事が動いたのは、太陽も地に沈み、暗闇に世界が呑み込まれた頃。
音沙汰のなかったゼウスが円卓の間に顔を出すや否や、暫くの間、誰もいなかったことに気が付いた。
そこには、基本的に何柱かが在中していて、テキトーな会話をしているもの。
いつもとは様子の違う空間を不審に思い、皆を招集したことから全てが始まった。
ヘラの『オリュンポス十二神』脱退を受け、候補神として控えていたディオニュソスが新たに加わったことまでは把握しているが、天界にザビを連れて戻ってきた以降の話は、ゼウスにはわかりかねる。
情報共有のためにも一度集めておかねばならないと、ゼウスは判断した。
×××
俺がザビを連れ、ここに来た時にはもう一柱も見受けられなくなっていた。
皆、自由に部屋に戻る権利はあれど、こんなにも活気のない空気が流れているのは極稀で、どうにも嫌な予感が拭えなかった。
見たところ、天界に帰ってきた後、全員でここにいる時間はあまりなかったように思われる。
これはあくまで推測でしかないが、空気の淀みと広がりで何となく察することができた。
――ただ一つ。不思議に思うのは、あまり嗅いだことのない腐臭のようなものが漂っていたということだけだ。
『
俺は久しぶりな全員集合に、少々の感動さえ覚えていた。
静けさは、心に穴を空けるのかもしれない。あまりの興奮に、そんな突拍子もないことを考えてしまう。
「急に招集して悪かった。これより始めるのは、情報共有と今後の方針決定を『目的』とした『
活発なやり取りを期待したい‼」
「おい、ゼウス」
「なんだ、アポロン」
「あの、なんつーか。……知らないようなんで、最初に言わせてほしいんすけど」
「なんだなんだ、もったいぶって」
「ポセイドンが裏切ったんすよ。この中にももしかしたら『裏切り者』が潜んでいるかもしれないっす……!」
「はぁ?」
「「「「「「「「はぁ⁉」」」」」」」」
思いがけず重なった言葉。
待ってくれ。なぜお前達も知らないんだ?
俄然、アポロンの言葉はあやふやになっていく。
――俺の直感は酷いくらいに黒く重く、不吉な末路を指し示していた。
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