4-68.最後の欠片

※今回も前回と同様、タナトス視点から展開されていきます。



 そう言えば、『英雄の領域』に二柱の『神種ルイナ』のを置いてきてしまったのは、非常に残念だった。

『消能者』と『治傷者』。どちらも良い『神様』を由来としていたのだ。

戦闘面で大いに活躍しそうな、ドラゴンとしてかなりの圧になりそうな個体だったからな……。

 まぁ、済んだ話だ。変えられるのは未来これからだけ。建設的な話をしようじゃないか。

沈黙を食い千切るように、喉を鳴らす。ここにいる二柱、そして連れ帰った人類を見回しながら、俺は口を開いた。


「俺達の次なる作戦は、最後の欠片をりに行くこと」


「最後の欠片ぁ?」


「そうさ、気になるだろう。俺は既に九柱分の血は確保してある。

だから、残り一柱、あの組織の総統様の血さえ手に入れば、世界の滅亡は秒読みとなるのだ」


「ほうほう。んだら、儂が手早く取ってくるじぇ。

イノーの反応でわかったからのぉ」


「いぃや、待て。お前は行かなくていい」


「ん」


「コイツに行かせてみる」


 親指を突き立て、指し示した先にはイノーがいた。

瞳孔を小さくし、理解できないといったような表情を見せてくる。

無理もない。これはおまけ程度に連れてきただけの要員だと思われていたのだから。


「なしてだじぇ。なして、そのイノーをぉ?」


「お前見たって言ったろ。コイツがあの状態に入ったって。

えぇと、そうそう、あれあれ。――万物讃歌アウローラの状態に」


 そう、この『サングイス』に来るまでに、交戦中の様子をできるだけ詳しく語ってもらっていた。

その中で出てきた不審な言葉、万物讃歌アウローラ。噂程度には聞いていたものの、実際に見たことはない状態。

万物全てに可能性の門戸が開かれているという、伝説上の覚醒状態のことだった筈だ。

その境地にまで至れる逸材なら、かなり見込みがあるように思う。

更には、もう一つ。大きな有益点アドバンテージが、イノーにはあった。

それこそが、ケルー、ベロウとの関係性についてだ。


――二柱と今回のイノー・スーは、血縁関係にあったらしい。


 二柱ともよくスーという姉の存在について語っていた。

心に芯をもった、強い『神様』で、二柱の精神的支えになってくれていたようだ。

とある『神様』に追われて、天界を去ることになってしまったが、いつまでもつながり続けている大事な家族なのだと、何度も何度も口酸っぱく言っていた。

あの白い檻の中で展開された話によって、点と点がつながり、新たなしくじりの補填が行われていった。

勿論決めたのは、ここに来るまでの道中だ。


 駒として使っていただけだったイノーが、本格的な戦闘員として奴らを襲う。

思えば、アイツらは自分達の仲間とばかり戦っているのではないだろうか。

それもいい。それがいい。可哀想なくらいが丁度いいのだ。

ただヘラの損傷具合を推し量ると、総統の実力は半端なものではないことが予想される。

よって、ボロボロのヘラを休ませつつもイノーと共に、下界へと降臨させるのが良いかもしれないと、作戦が次第に形になっていった。


 そうだな、期間は二週間後と行こうか。

判断も鈍るであろう夜を狙って、最後をこの手に掴み取る。

俺は投げかけた質問に返される言葉を全部聞き流しながら、両拳を強く握った。

力が入って息がしづらくなったのか、両脇に抱えられた『神種ルイナ』達から呻き声が漏れ出した。

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