4-67.回顧と目標Ⅱ

※今回も前回と同様、タナトス視点から展開されていきます。



 もう数か月も前のことになるだろうか。ポセイドンが、試しにイノーとかいう奴を乗っ取ろうとしていた時期は。


 ポセイドンは水へと擬態する魔法をもっている。大海を司っているのだし、当然と言えば当然だろう。

その擬態した水を他の万物に取り込まれることによって、その万物の主導権を獲得することができるのだ。

乗っ取りの最中には、その人物なり生物なりが取る行動や言動を模倣するようで、誰かに気付かれる心配もない。

どこかの組織に忍び込むには、最適の能力だと言えるだろう。


 どうせ『裏切り者』を創るなら、上層部に位置する奴の方がいい。

そんな至極真っ当な見解から、イノーとかいう、たった一人しかいない女性を標的ターゲットに据えることにした。

死の救済マールム』からしてみれば、恰好の的だったのだ。


 ポセイドンの能力は下界全域を監視、観察するのに、本当に適したものだった。

先ほどの水に擬態する魔法だけでなく、その範囲は大地にまで及んでいた。

地割れやはお手の物、一点だけを隆起させ、万物の妨害を行うことも可能だった。


 そんなポセイドンがイノーの行動を操り、達成すること。それは、『幻の十一柱目』についての情報を獲得することに集約された。

イノーの魔法はかなり重宝した。『探真者』――番の神、光明の神アポロンに象徴される真実を司る能力。

真実を読み取ること、新たな真実に植え替えること、真実を実現させること等々と、本当に様々な魔法を行使することができたおかげで、『幻の十一柱目』に近付いていくのは容易になった。

 当時は他組織員との修行中だったらしく、一時は近付く好機のようなものが全く見当たらなかったが、他組織員の計らいで一対一サシ飲みが決行されたことで一気に形勢は逆転した。

そこからは、真実の見通し、弱点の理解、攻略法の確立と、ポセイドンであっても組み立てられるような道筋で事を進めていき、迎えた研究室での一件にまで発展する。

『裏切り者』の顔を見せ、虱潰しに調べ尽くして、大体の生体はわかってしまった。この時に、計画の終局は確定したのだと思う。

それまで、あと一つ欠けている何かを求めて奔走していた。その頑張りが嘘のようだった。


 この時、わかったことは終局の光景だけではなかった。

別に俺は、『オリュンポス十二神』という地位に立ったことがある訳ではない。

それでも、ここまで突っ走ってきて初めて現実を知ってしまったのだ。

これは、平等を、幸せを謳う彼らの信条とは乖離に乖離を重ねた事実だった。


――『オリュンポス十二神』は、情報を支配下に置くことで、弱まった実権に権威を付けようとしていた。


 こんなことでしか保てない権力に価値なんてないだろう。

もう止まることなんかできやしない。その日が、願いの果てを見るまでは死ねないと、心に誓う契機となった。

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