4-61.専売特許の意地比べ(後編)
※今回も前回と同様、イノー視点から展開されていきます。
――もう突き進む道は決めたのだ。
「
その存在は『覚醒啓示』によって教えてもらっていたが、まさかここで解き放たれるとは思わなかった。
何でも限界状態を短期間に集中持続することによって
現にワシの身体は『今』、眩い光を振り撒きながら
衝撃と同時に小さくなった彼の瞳孔が、弱々しく揺れている。
きっとこの場の誰よりも油断が大きくなっていた。
もうこれ以上の攻撃はないと決めつけていた。
――正に『神様』といった負け筋だ。
その怠慢が、その慢心が、その結末を呼ぶに至らせた。
生命に一とか十とかいう、テキトーな数値で推し量れるものなんてない。
平らであること。平坦な舞台の上で、等しく調理される。それが『神様』も含めた、万物の宿命なのだ。
それを無視して、自分達の正義を絶対として振り翳す『神様』には、それ相応の罰が下って当然と言えよう。
たまたまその役割に抜擢されたのがワシだっただけのことだ。
ワシは光となっていた。
右へ左への翻弄は当たり前。地面を削って音を出し、気配をそこら中に残していく。
どこから仕掛けてくるか。わからせないし、わかったとしても判断を遅れさせる。
高速に到達したワシとの戦闘における判断遅延は致命的な差を生むだろう。
一発を喰らわせるまでが長くなろうと、そこに『
この速さの上に成り立つ戦法だ。この
格段に上がった速度に目が慣れてしまう前に、決着を付けなくては――。
「……まさか、君がそうだったとは思わなかった。これは正しく奇跡と呼べるっすね」
殴られながら、蹴られながら、指差されながら、圧倒されながら、彼は何事かを漏らし始めた。
命乞いなら聞く耳はないが、どうやらその雰囲気は感じ取れない。
別に動きを止めずとも、鼓膜は勝手に音を拾う。
右頬に左胸、右腕に左鳩尾と、連鎖的に緩めることなく攻撃を続けた。
いつしか彼には流血が見られるようになっていた。
まだ口が元気であるなら、無力化できたとは言えない。
ザビ少年やエクには、もう
だから、止められない。
表情に余裕の色があるとはいえ、『神様』をも凌ぐと言われる
それだけ、強力であると番の神に伝えられたんだ。――あ、そうか。
「おやぁ、何か攻撃が遅くなったかな。もうオレっちに君を攻撃する気はなくなったっすよ。
でも、君からの攻撃なら幾らでも受けるつもりだから安心して。だって、オレっちと君は――」
「番の関係だって、そう言いたいのだろう⁉」
『覚醒啓示』とは、覚醒を遂げた一部の『
教えてもらえる『神様』は、『
ワシが『覚醒啓示』を受けたのは、もう何十年も前のことだ。
だから、記憶が薄れてしまっていた。
でも、そうか。これだけ彼の声を聞いていくと、流石に脳が思い出してきた。
ワシは『探真者』。番の神の名は、確か――光明の神アポロン。
とすれば、真実が読み取れなかったのも納得できる。
予想の範囲を抜け切ることはないが、『探真者』の極致にいる彼ならば、真実を隠す魔法を使っていても不思議ではない。
ただわからないのは、アポロンもワシを『
『神様』であれば、わかってもおかしくなさそうではある。
既に魔法を用いて、お互いのスーが同一人物であることを言い当てられていることも、不可解の三文字がチラついて仕方がなくなる要因になっている。
「覚醒は思った以上に、人を強くしたものだよ。
黒く沈んだように見えなくなった箇所があったから、君が君であることに気が付けなかった。
オレっちは最初から、君のことを全部知りたかったんすよね。
あまりに君が彼女に似ていたから、どうにも気になって……」
途切れた言葉は、行き場なく消え失せていった。
この先は話してはいけない。駄目なんだって、まるで縛り付けるみたいに。
その態度が、なぜか許せなくなって、ワシは無意識に『答え』を求めていた。
「教えてくれないか。ワシに詳しく」
勿論、ワシから尋ねられるとは思っていないアポロンは、止んだ攻撃と共に、ワシを見つめ始めた。
ワシの目を見ろ。真実を見抜くのは得意な筈だ。お互いにな。
アポロンは観念したように、でもそれでいて、どこか嬉しそうに言葉を吐き始めた。
「彼女はか弱く、『今』にも消えてしまいそうな儚げな空気に包まれていたんすよ。
ずっと追いかけても振り向いてもらえることなく、思ったより早くに別れが来て。
オレっちには未来が見えたけど、彼女はそう遠くない未来に死ぬ運命にあったんすよ。
だから、少しでも笑顔になってもらいたくて。
最初はそんな軽はずみな思いからだった。でも、段々と関わるようになって、彼女を知って、そうじゃないって。
彼女は悲劇の
ボコボコになった地面に何かが溜まり始める。
着色は濃く、鮮明に、思いの丈は熱く、静かに広がっていく。
「だから、こうして、まだ――――続いていて良かったってッ!
彼女がもう長くはなかった命をつなげて紡いでくれた未来が、君に託されていると知れて。
本当に本当に、良かったと思うっすよッ‼」
――ワシはこんな男、御免だ。
最高に気持ち悪くて、最高に自己中で、でも、最高に人を愛せる『神様』なんて、大大大嫌いだ。
腕はだらりと垂れ下がり、あんなに活きが良かった足はピタリとアポロンの前で止まっていた。
その静止した筋肉とは裏腹に、ワシの目から溢れる汗は止まらなかった。
随分と激しく暴れたのだから、汗くらいでるさ。汗くらい。
……あぁでも、なんでだろ。前がちっとも見えないや。
戦闘中だというのに、情けない。これじゃ、『神様』と変わらないじゃないか。
脳内で展開されていた魔法の構図が消えていく。
『
気が抜けたワシが馬鹿だった。すぐさま、
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