4-60.専売特許の意地比べ(中編)
※今回も前回と同様、イノー視点から展開されていきます。
エラーの他にも様々な生物に姿を変えながら、ワシは
そもそも効果の持続時間が一瞬しかもたないこともあって、入れ代わり立ち代わりの
『
数か月も前にあった出来事かつ、最近は特に忙しかったこともあって、魔力の消費が半端ではないことをすっかり頭から抜かしていた。
不調が丸っきり帳消しになった訳でもないのに、この消費量は重過ぎる。
わざわざ前に出てきてくれた
そんな必死を塗り固めてつくったワシに対して、切れ長な瞳を輝かせ続ける美男神。もうその差は、誰が見ても歴然だった。
「オレっち達はさ、すぐに仲良くなることはなくって。
何度食事に誘っても、一向に良い返事がもらえなかった。
でも、振られる度にオレっちの思いは加速していったんすよ」
ワシの攻撃も、『神様』の話も止まらない。
だが、やはり両者互角とはならず、この場で気持ちよくなるのは、『神様』ばかりだった。
片手間に覗こうとした真実は、なぜか黒く塗り潰され、上手く情報を得ることができなかった。
簡単に攻略法など晒してくれる筈もないか。
わかってはいたが、やはり『神様』は『神様』だった。
「二柱
暇さえあれば、彼女の元に通い、自分の抱く純情な思いを伝え続けた訳よ。
オレっち、彼女のことを考えている時間が途方もなく幸せで、愛おしかったんすよね」
『神様』の戯言に終わりはなかった。
きっとスーも気持ちが悪かったことだろう。こんなに粘着されては、自分の時間もつくれなかったのではないのか。
自分の時間ほど、大切にすべきものはない。ワシの生き様が、その何よりの証明になっている自負がある。
もう過去の話ではあるが、スーには同情せざるを得ない。
――ワシはこんな男、御免だ。
「そんな日々がほんの十年続いた。それだけでスーは突然、姿を消したんだよ。
もうオレっちは絶望の淵に叩き落されたね。
なんで、どうして? オレっちはこんなに愛しているのにってさ。
で、後から話を聞いて知った。彼女は下界に降りたんだって。
『神様』であると言う素性はきっと隠す筈だから、身寄りもない彼女は
まぁ、オレっちに抱かれるか、地上で泥水啜るかで言ったら、圧倒的に前者がいいってわかると思うんすけどね」
さらっと言ったことが、思い出されたスーの歴史に自然とつながってしまった。
弱めない攻撃手に、もう片手すら使うことのなくなった『神様』。
自在に身体を揺らし、するりするりとワシの猛攻を躱していく。
その身のこなしは、エラーすらも凌駕する身体能力を感じさせた。
真実を見通されたことから察するに、この『神様』は身体強化系の魔法を使っている訳ではないのだろう。
そう考えると、現状躱し続けることを可能としている、高い俊敏性は元来身体に備わったものということになる。
本当にふざけているとしか思えない力だ。
人類の何十年分の努力を、いとも容易く超えていく『神様』の
過去の人類は世間知らずも
勝敗は目に見えていても、見習わなければならない心構えなのではないだろうか。
『今』は何の因果か、魔法さえ使える身となった人類がいる。その数少ない存在に、ワシはなることができた。
ならば、弱音など吐いている暇はない。立ち向かうことはただの一歩に過ぎず、そこからの更なる一歩を踏み出す義務があると言っていいだろう。
――
石畳の跳ね返りを裏切って、反対方向へと身体をもっていく。
急に変わった方向に、『神様』は顔だけをこちらに向けてきた。
これに対し、更に方向転換を重ね、視線を置き去りにする。
最早地面を踏んでいないとすら思えるほどに、身体は落ち着いていなかった。
目線を絶対に追いつかせない。
一秒を待つな。小数点の世界に飛び込め。
諦めない気持ちは、ザビ少年に教わった。今度はワシの番だ。
『生きる』をすることの難しさは、計り知れないな。
こんなに息が苦しくて、こんなに汗が止まらないんだ。
呼吸は身体に纏えていなかった。身体は常に一秒先を生きていて、『今』にはいなくなっていた。
これがワシ。動物を超えた、万物の象徴。人類の最高到達点は、
――人類を一つ上の段階へと連れていく、『
光り輝くワシの足が、『神様』の鳩尾を掴んだ。
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