4-46.本音の延長線上に
※今回も前回と同様、エク視点から展開されていきます。
会話はしない。これは
『今』の僕に、『
僕に、ヘラに対する畏怖や尊敬の念は微塵もないからだ。
今回のこのヘラとの対面においては、逆に同情や心配する心で一杯になっている。
これでは、勝ち筋の『
何なら、今後予測される展開に備え、先手も打った。
僕は超えたのだ。壁を。背丈を遥かに飛び越えた、絶壁を。
僕は無言を貫いていた。何やら話す声が聞こえるが、てんで僕には響かない。
結局、こうして語られるはタナトスから吹き込まれただけの刷り込みでしかない。
そんなものに、傾ける耳などもっていなかった。
視線だけが絡み続ける、不可解な状態が気にくわなかったのだろうか。ヘラはいきなり僕を殴り始めた。
『神様』はよく、人類の親であると言われることがあるが、それが事実なら単なる虐待だ。
これを容認したくはないが、この罪を罰してくれる存在はこの世に存在していない。
あるのは、二つの魂。僕ら人類と『神様』達だけなのだ。
でも、その『答え』は、きっと一つに絞られる。全部を選ぶことは難しい。
意見が異なれば、対立という名称で括られ、自ずとぶつかり合う宿命が定められる。
決められた絶望。対話する意思を示さない、生きとし生ける万物は、争い、蹴落とし合うことで、優劣を決定付けなければならない。
――本音を言えば、争いなんてしたくはないのかもしれない。
昔は、英雄になることしか頭になく、それ以外視界には映ることはなかった。でも、最近になって良く思うことがある。
皆、必死にその日を生きて、その日の中で笑顔を探している。
どうしようもなく無慈悲で、残忍な世界だからこそ、僅かな希望にでも縋っていたいと
争いは傷を生み、死を育てる。死は哀を呼び、また新たな死を殺していく。
そうして、無意味な円環を描きながら、次第に規模を広げていき、やがて世界を飲み込んでしまうだろう。
それは、絶望以外の何物でもない。その全ての元凶が争いに集約されるなら、僕は英雄を捨ててもいいと思えるほどに、平和を願う。
それでも、決してそんな切望が叶えられる世界などではなく。一つ、襲撃を抑えれば、今度は別の一つが湧いてしまう。
また一つ、また一つと増殖が連鎖し、思いの行く先がないことを悟らせる。
だから、僕は改めて誓った。
――本物の英雄になることを。
世界を笑顔に満ちさせて、英雄なんて必要のない世界を実現してみせると。
幸い、僕には力があった。
『今』も尚、僕を殴る手は止まらない。
でもいいんだ。だからどうした。
何も痛くない。僕の身体の一つや二つ、世界に比べればどうってことはない。
やがて、僕は殴打の波から解き放たれる。少し息を乱しながらも、ヘラはどこか満足そうな顔をしていた。
ヘラにそんな表情させるな、タナトス。
『今』、脳を使っているのはヘラなのかもしれない。
それでも、この行動と脳を結びつけたのは、タナトス。お前でしかない。
死んでも許せない借りを感じる。これは、僕への挑戦状と捉えよう。
勝手は『神様』の領分だろうが、受けて立つ。
『今』さら、自分達の檻でガクガク震えているだけだとは思うな。
対面するヘラは、ようやく整った呼吸を踏み台に、言葉を発した。
「あはは、あー楽しかった。憎たらしさも和らいだかなぁなんて。
さてと、最後の仕事をしよう。この魔法は『
もうアタシの『勝ち』は確定したのよ。――『
やはり来た。これがヘラ、もといタナトスが僕に向けた最終奥義。
これさえ凌げれば、僕の『勝ち』が確定となる。
『
自分、つまりはヘラが、僕のことを程度が低いと思っているかどうかで言えば、間違いなく思っていることだろう。
ただ、僕からしてみれば、万物の上位存在として現れたとしても、あの時世界を経た僕にとっては他愛もないものでしかない。
故に、前提からの崩壊とでも言おうか。もう全てが、僕の掌の上だった。
表向きの感情を取り繕うのは大変だった。
『考えることができなかった』と考えている以上、最初から勝敗は見えていたとでも言ってみようか。
さて、仕上げだ。一頻り笑っているようだが、僕とて時間は有限。
さっさと決着を付けて、既に勝負を決めているであろうザビの元に向かわなければ。
視界をズラす訳にはいかないために、目で確認できないのが辛いところだ。
気付けば僕はヘラを、現実の殴りと蹴りで、圧巻の大勝を飾らんとしていた。
初手の予想外から、一気に速度を上げていき、時世界通りの展開でヘラを圧倒していった。
最後の一撃。これが決まれば、もう勝負は付こうかという間際に、また新たな事態が現状を搔き乱してきた。
聴覚と視覚。二つの刺激が、僕達を襲った。
まずは鼓膜に突き刺さる高音の声。
でも、その正体は直ぐに分かった。塔の真下、宴会会場の中心で佇んでいた、青藍の髪の女性、第四部隊隊長、イノーの声だった。
何事かは理解できないが、恐らくは同時に展開されたもう一つの光景が影響しているのだろう。
聴覚の次は、視覚。それは、『今』までとは一切の様相が異なっていた。
肌を撫でるは、赤い稲妻。一点から刻々と広がる黒雲が、あっという間に王都全域を包み込んだ。
息を呑む。僕はその真なる意味を、『今』知った気がした。
赤い光を背景に、地上へととんでもない速度で降りてくる五つの影があったのだ。
空で迷ったままの左拳が、所在のないことを憂いていた。
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