4-43.ここで死を、死をもって断ち切る

※今回も前回と同様、エク視点から展開されていきます。



 僕の魔法は、前提に『強戦者』の『最強アクイラ』が由来している。

最強アクイラ』によって、目で見た魔法を、高い再現性をもって使い熟す事ができるのだ。

魔法を行使するときは、使いたい魔法をそのまま脳内で宣言し発動するが、実際にはこの『最強アクイラ』を経由しての発動という流れになっている。

 なぜこうまどろっこしいことを考えねばならないのか。それは偏に、ロビの一言があったからだ。

ロビはこう言っていた。


――覚醒することです。


 覚醒はきっと魔法のことを言っていたのだろう。

だが、僕の場合、元来の魔法を覚醒する必要があるのか、それともそれぞれの魔法を覚醒させていくのか。

その幅がよく理解できなかったからこそ、こうしてわざわざ考えてみていたのだが……。

まぁ、そう難しく考えていても、事態は好転していかない。

まずは、『今』を理解し、覚醒に至る鍵を見つけていく必要がある。


 攻撃として有効打になりそうなものはあるだろうか。先にも言った通り、ここには瓦礫の影も形もない。

となれば、『物集コレクト』からの『改造リビルド』は手として成り立たなくなる。

ちなみにこれは、『操物者』、お父様が使っていた二つの魔法だ。

小さい頃は、僕より弱かったけど、よく見せてくれた。それは少ない家族との記憶の中でも、特に印象に残っていることの一つだ。


 『探真者』は、殊動かない敵に関して言えば、もう出番はなさそうではある。

唯一使えそうなものは、『捏造ファブリケイト』くらいか。

これを駆使すれば、相手を柔らかくさせ、攻撃をより通りやすくすることができるかもしれない。

ただ、同時に使える魔法は三つだけだ。候補の一つに入れておこう。


 推測ではあるが、確実に使うことになるのが『膨力者』の『強筋ブースト』。

物理が効き難い相手であるとはいえ、圧倒的な上からの殴りには対応できなくなる筈だ。

動きの俊敏性も担保され、仮にヘラが動き出してしまったとしても、一枚上手であざむける可能性もある。

その線を狙って、魔法の一つはこれにするのもアリだろう。


 『消能者』、『治傷者』は、現状使う必要がないので、放置だ。

いざという時になったら、隠し札として使ってやる。

きっと驚く筈だ。ヘラの魔法を無効化する『消能者』の魔法、『斬無オブリタレイト』によって、思惑は幻想の中に消えるのだから。


 そして、最後は『強戦者』、僕自らの魔法。

これにはあらゆる特性をもつ『矢』を生成する魔法であったり、稲妻を操ることができる魔法であったりと、多種多様なことができる便利屋的な能力が多い。

今回は、手に稲妻を纏わせてみるのもいいかもしれない。

これまでやったことはなかった。なぜなら、『強筋ブースト』や『物集コレクト』、『改造リビルド』を使った時点で、多くの敵は倒せていたからだ。

でも、今回はなかなかに骨の折れる敵と来た。ここで試し、次につなげる。

ラスターつなぐ者』の名に懸けて、やり遂げてみせよう。


 さて、何となくではあるが、頭の中で鍛えていく魔法を三つ決めることができた。

初手、『捏造ファブリケイト』によって身体を柔くさせ、相手に打撃を通しやすくする。

次点、『強筋ブースト』によって筋力を増強させ、攻撃力を格段に向上させていく。

そして極点、『迅雷タウ=ウルース』によって、拳に雷を纏わせ、更なる破壊力を上乗せする、という三段構えで勝負に挑む。

 これで勝てるかどうかはわからない。でも、人生なんてわからないことだらけだ。

だからこそ、些細なことを面白く感じ、自然と笑顔も零れる。

沢山の組織員が証明していた。そして、僕も否応なく理解した。


――世界は笑っている。これが、人類の『答え』だ。


 僕は通りを挟んだ家屋群の屋根に飛び移り、助走できる空間を確保する。

もう準備は済んだ。あとはぶっ倒すだけでいい。

 一気に肉薄する身体と身体。視線は絡まない。僕だけが射殺した、幼気いたいけ飼い殺しヘラ

ここで死を、死をもって断ち切る。三連続の魔法の宣言と共に、手に走る衝撃と反発の代価。

それでも、左腕を空へと投げ、半身を思いっきり逸らしてみせる。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお‼」


 大絶叫を推進力に、僕は拳を振り下ろした。

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