4-41.時の始動Ⅱ

※今回は前回と同様、エク視点から展開されていきます。



 ――これは少し前の記憶。僕が復活を果たし、ヘラが急接近をしてきた時のことだ。

一触即発。もういつ殴られてもおかしくなかった。だから、僕は先手を打った。

無詠唱で放つ『炯眼ペネトレイト』だ。これにより、相手の次の攻撃を知る。

そうすれば、どう対策すればいいか、一目瞭然でわかるようになる。


 魔法によって見通せたのは、凶悪極まりない二つの奥の手だった。


 一つ目は『睥睨リリー』。『神様』の眼光による威圧によって、対象との優劣を絶対的なものにさせる魔法だ。

噛み砕いて言えば、圧倒的な力量差を思い知らせることで、相手の意志、思考を奪うことができるらしい。

この魔法を掛けられてしまえば、きっと反撃の芽は途絶えることになる。

相手の瞳の裏にある、嫌な余裕を払拭するためにも、それだけは避けなければ。


 そして、二つ目。これは一つ目を補助し、勝利を確定的なものにする魔法、『金林檎ストック』。

自分より程度の低いものを操ることが可能になるという、ぶっ壊れチート能力だ。

睥睨リリー』を喰らうこと、それ即ち『負け』を意味することがわかってしまった。

さて、どうしたものか。


 ――ちなみに言うと、先に行使された魔法『追弾ポムグ=ラーネイト』に関しても、詳細な情報を得ることができた。

追弾ポムグ=ラーネイト』は手のひら大の小型爆弾を生成することができ、その一つ一つが絶大な威力を誇る。

だが、その効果が及ぶ範囲はだった。

中にパンパンに詰まった粒状の球体が何かに被弾することで飛び出し、周囲の生物に接触した途端、大爆発を起こすのだ。

 僕は考え過ぎていた。爆発が起こった時、少しばかりの混乱に脳が働かなくなり、直感的に建物にまで被害が出ると思い込んでしまった。

……まぁ、出なかったとしてもどっちみち人々は守る必要があったし、きっとやることは変わらなかったが。


 さぁ、ここから始めていこう……ってあれ。

なぜヘラが近付いてきたままの体勢と表情で、動きが止まっているんだ。

よく見ると、僕以外の全ての影が、呼吸音も聞こえない程に固まっていた。

何が起こっている。何者かの魔法か。

なら、なぜ僕だけが動けている。わからない。


 その時、どこかから視線が飛んできた気がした。

バッと振り返ったものの、そこには沈黙を貫き通す『世界の黄金郷メディウス・ロクス』しか見受けられなかった。

その真下には、ザビの誕生日会に集まった多くの組織員達が、その顔を寄せあったままに保たれていた。


――そうか、時間が動いていないのか。


 理由はわからないが、なぜか『今』がずっと流れ続けている。

待て。ならば、僕がここでヘラを倒しさえすれば、戦況は大きく覆るんじゃないだろうか。

……なるほど、誰かが『今』をつなげるために、魔法を行使したんだ。

じゃあ、僕は――『今』前方の視界を埋め尽くす、このオバさんヘラをぶっ倒せばいいんだな。

一人だけ機敏に動く世界の中、本当の『神殺し』が始まった。

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