4-34.天突き破る咆哮

※今回は、ザビ視点に戻っています。



 俺は、エクの声をしかと胸に受け止めた。

そんな声も出せるんだな。まるで……まるで、偉大なるお父様みたいだった。

英雄は確かに受け継がれている。少し熱くなる胸があった。


 ……だったら、俺だって後ろを向いてる暇はない。

脳内では、もう無理だって決めつけたくなる自分がいた。無理だなんて言わないと、あれほど言ってきた俺なのにだ。

弱気になってしまった。それほど、エラーを信頼していたんだ。

でも。一回効かなかったからなんだ。

もう一度、もう一度。そうやって積み重ねていくのが、俺達人類の強みなんじゃないか。

きっと届く。根拠はないけど、今度がある。

続きがある。勝負はまだついちゃいない。

どこか実感の伴った声音が、俺の拳を更に燃やしてくれた。

もう一度原点オリジンを見つめ直させる機会をつくってくれた。

期待は、応える者がいるから成り立つ。

俺は攻撃の手を緩めず、そのまま押し通すことに決めた。


 ――精神の統一は俺の日課。毎日毎日、どんなに忙しくても時間を費やした。

その成果もあって、『煥発熾火摧破撃カニス・ルプス』の精度は格段に向上してきた。

効果の持続時間は五分を超え、発動にも準備がほとんど必要なくなった。

ほぼ無時間ノータイムで三発までなら連続で使うこともできる。

身体への負荷がない訳じゃない。それでも、確実に前より使い熟せている。

いずれエラーすらも飛び越えて、最強の名を恣にしてみせる。それが、『今』の『目標』だった。


「――お前、そんなことをしても意味がないとわかっているだろう。なぜ技を解除しない?

無駄な体力を使うだけだ。素直に諦めておけよ、お前には絶対に『勝ち』は見込めない」


「うるせぇ! 俺がやると決めたからには、最後までやり通してみせる。

誰が何と言おうとな! ――『解放リベレイト』」


 俺の『今』の意志が簡単に崩せると思うなよ。

エクが命張って帰ってきて、俺を奮起させたんだ。

誰が曲がるか。誰が屈するか。誰が負けっぱなしで良いと言った。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉおおお!」


 腕の疲れは疾うに限界が来ている。

ギリギリで行使した『解放リベレイト』の魔法によって、何とか長時間持続による負荷を軽減させている。

これがなければ、『今』ごろ俺の腕はなくなっていただろう。

何せ、桁違いの精神力をつぎ込んで、寿命さえも喰らって撃つ技だ。

それなりの注意を払わなければ、痛い目を見る。最悪、死という最上級の痛い目を。


「おい、止めろ。その手を退けろ!

汚らわしい手で触られれば、『神様』としての威厳が落ちるだろうが!」


 俺は『煥発熾火摧破撃カニス・ルプス』を撃っていない側の左手で、タナトスの空いた手を塞いでいた。

勿論、『強筋ブースト』は健在。一度ならず二度までも、元人類最強に恥をかかせる訳にはいかない。

どこにも逃げないよう、ガッチリ捕まえることだけを考えていた。


「そんな触れられた程度で剥がれ落ちる、柔な『神様メッキ』なんか捨てちまえよ!

どうせ下らないことにしか、与えられた権能を使わないんだろ? それじゃ、無能バカやってる人類の方がよっぽどマシだな!」


「ザビと言ったか。お前は許さない。即刻、俺が殺してやる。

大丈夫だ、安心しろ。意識さえも置き去りにする瞬殺で、お前の人生の幕は閉じるのだから」


「ハッ、言ってろ『神様クソ野郎』! ……おいおい、汗でてんぞ、大丈夫か?」


 事実、タナトスの額には汗が滲んでいた。

あの『裏切り者』を告白してきた時とは、えらく見違えてしまったものだ。

これが本来の姿とでも言うべきか。まぁ、醜いことに変わりはない。


 その時、事が大きく動き出した。暫くの間均衡を保っていた接触面が傾き始めたのだ。

優勢を示したのは、俺の拳――『煥発熾火摧破撃カニス・ルプス』の方だった。

次第に受け止めるタナトスの指に震えが表れ始める。

そのブレは秒を追う毎に、大きくなっていく。一秒、二秒、三秒、四秒……。

タナトスの指に少しずつ光の亀裂が生まれ始めたかと思うと、次の瞬間には肩から伸びた腕含め、右腕全てが消し飛んでいた。


「っしゃああああああああああああああああ!」


 俺はようやく解き放たれた両の腕を天に突き上げ、喜びの咆哮を張り上げた。

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