4-32.近くて遠い声
※今回は、エク視点から展開されていきます。
交互に行き交う感じになってしまい、申し訳ありません!
使い古されたようなその声は、遠い筈なのに近く聞こえた。
顔は振り向けない。『今』は全身の燃えるような熱さと痛みで、悶え続けることしかできなかった。
それでも、その声だけは耳が掴んだ。掴まなくてはいけなかったんだ。
それが望みだったから――。
「摂理たる円環の導き。雪辱は永遠を刻み、炎天の灯を映す。
最果てに烈日なる継承を。――『
リーネアの声だった。
あの日。今日がザビの誕生日であると知った日に、僕は
――逢ってほしい人がいます。
ソイツは『今』王都にいて、『我世』の中でも特にいい成績を収めている、本当に強い奴なんです。
どうか応援の一言でもかけてやってくれませんか? ルビー・ラスター・シセルとして。
ザビが本物かどうかわからない。でも、もし本物であるのなら、逢わせてあげたい。
僕の感動を、同じように抱いてほしい。誰かにこんなことを思うようになるなんて思わなかった。
でも、それも叶わなかったんだ。僕はこの苦しみの中に、最後の思い残しをほざきながら死んでいく。
――まだだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!
諦めるなよ、『
いきなり脳内に響いた誰かの声。この声は知っている。
でも、どうして聞こえてくるのだろう。――お父様の声が。
お父様、フール・ラスター・シセルは僕が殺した。たった一人の英雄になるとかいう馬鹿げた理由で。
『今』思えば理解不能だが、当時の僕は必死だった。お母様に言わせれば、生きていたのだ。
脳内では立て続けに言葉が発され続けている。これは僕にしか聞こえない幻聴なのだろうか。
周囲の様子は、ずっと瞳を閉ざしているせいでわかっていない。
――なぁ、聞こえてんだろうがッッッッ!
返事くらいしたらどうだ、エクゥゥゥゥゥウウウ?
語尾までお父様にそっくりだ。だが、これは僕がつくった理想なんかじゃない。
僕がつくるなら、自分の名前を呼ばせることはしないからだ。
そもそもお父様が話しかけてくる理想を、殺した張本人が聞きたいだろうか。そんな訳がない。
できれば胸の奥底に、大事に大事にしまっておきたいと思う筈だ。
よって、これは全く他人の意志。そして、言動から鑑みるに、本物のお父様の可能性も考えられなくもない。
…………いやいやいや、待て待て待て。そんなこと、起こる訳がないじゃないか。
お父様は死んだ。僕が自らの手で殺した。
自分の手で埋葬して、誰にも掘り起こされることもない。
その時、僕の脳裏に一つ、反例的な存在を思い出した。
まだ確定ではない。だがアイツも、ザビも同じようなものなんじゃ……。
だったら、あり得るのかもしれない。
――あぁ、そういうことかッッッッ! はいはいはい。
なぜ私が話しかけてるのかってことだよな! それは、勿論お前を宿主としてずっと生き長らえてたからなぁぁぁぁぁぁぁあああ!
――え⁉
これには思わず声が出た。
もしかしたら生きていたのかもとは思ったが、まさか自分の中に生きているとは思わなかった。
なぜ『今』の『今』まで話しかけてこなかったのだろうか。
『今』までと異なる点は特に……あ、そうか。あのリーネアの声。
リーネアの声ではあるが、恐らくお母様が魔法を行使したということだろう。
これがきっかけとなり、『今』に至ると。ってことは、この魔法の効果は……。
――あぁ、違うかッッッッ? じゃあ、なんだ?
私がなんで『今』話してきたかとでも言うのか?
ははーん、そうかそうか。そんなことが気になってたのか、エクって奴はよ……。
まぁ、ぶっちゃけ言っちゃうと、心置きなく成仏するためだよぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!
もうこの言い回しにも慣れてきた。でも、気がかりなのは内容の方だ。
心置きなく成仏する? ……確かに僕の中で生き続けてきたのは理解した。
でも、なぜ『今』成仏しなければならないのだろう。
自分の中では処理し切れない内容に、次なる『答え』を望むのだった。
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