4-27.会敵と再会、そしてⅡ(前編)

 お腹にはまだ料理が詰まっている。

これで動けと言うのは、どう考えても鬼畜の所業でしかない。

ひっくり返っても、消化は追いつかないだろう。

 現状、地に伏したままで硬直している組織員が大半だ。

半数以上が胃の内容物を吐き出し、再起不能になってしまっている。


 この惨状たらしめた、あの地震は一体何だったのか。

偶然にしてはあまりにも都合が良過ぎる。

もし仮に俺が知り得ないところで、地震を自在に起こすことができる『神種ルイナ』がいるとしたらどうだろうか。

そうなれば、その『神種ルイナ』は、『死の救済マールム』側についていることになる。

これは予想以上に厄介極まりない事態が起こっているのかもしれない。

 これまで『神種ルイナ』はこちら側でしか見たことがなかった。だから、考えもしなかった。

でも、よく考えてみればそうなってもおかしくない。そうなる可能性がない訳ではないのだ……。

ん、ちょっと待てよ。それってかなりマズくないか。

俺達がこれまでの敵に勝ってきたのは、『神種ルイナ』の力、魔法によるものが大きかった。

その力が今回は俺達を殺すために使われるかもしれないと来ている。

これってまさか危機的状況なんじゃ……。

俺は最悪を結論付けた脳みそで、次取れる行動を模索し始めた。


 初手にすることは、現在置かれている状況の確認だ。

目視できる敵は一体、死の神タナトス。

だが、もう一体存在することが予測され、もっと言えばそれは『神種ルイナ』である可能性も大いにあり得る。

戦いがより過激になることも、覚悟しておくべきだろう。


 今度は、立てている人に知っている人がいないかも探してみた。

すると、イノーさん、ロビ、ハスタの三人が目に付いただけでなく、エクの姿も確認できた。

エクに関しては、『今』に気付いたことではない。

ずっと建物の影から見ていたことは知っていた。

あの鋭い視線は隠そうにも隠せないだろう。

直ぐに気付き、視線を送ろうとしたが、その時には半身乗り出した身体が見当たらなくなっていた。

『今』はまた戻ってきて、時が来るのを待っているようだ。


 ――ここで問題なのは、なぜ俺の誕生日会に総統自ら出向いてきたのか、だ。

イノーさんが最初に俺へのお祝いを述べてきた。

イノーさんが主体でこの会を開いていたとしたら、絶対にエクを呼ぶ訳がない。

何ならアレコレと理由を付けて、ここに近寄らせないようにするに違いない。

何せ三日も準備する時間があった。できないことはなかった筈だ。

つまり、そこから考えられるのは、お望みでない来訪。

……もしかして俺に詰問でもしに来たのか。

思えば、色々とあった中で、第二次王都竜討伐戦の時に少し話したのが最後だった。

あの時もヒヤッとした対話の果てに、俺が逃げ出して終わってしまったような気がする。

待て待て、こんな状況で出逢ってしまったのはマズかったんじゃないか。

いや、落ち着け。スビドーでの征討戦の時も一緒の場所にいた。

だから、きっとすぐに詰問されるようなことはないだろう。

そうだ、そうに決まってる。


「おい、間抜けの代名詞たる人類達。なぜ俺を攻撃してこないんですか?

ほら、こんなにも無防備なのに、どうして? こんなに退屈だなんて知りませんでしたよ」


 タナトスは俺達が攻撃できる状態ではないことを知って、分かりやすい煽りを始めたようだ。

この胃袋にある物を消化し終えるまで待つのは、土台無理な話だろう。

きっとこの煽りもすぐに飽きが来て、この王都を破壊し始める。

そうなれば、愈々この王都も再建することが難しくなってくるだろう。

それだけは避けねばならない。ならば、どうする。


――無理にでも戦うしかないってことだ。


 俺の魔法は何のためにある。

この戦いが終わった時、きっと苦しみの中、地面をのた打ち回ることになると思う。

でも、そんな苦しみより、王都を守る方がもっと大事なことだ。

やろう。やらなきゃならない。

立て。歩け。近付け。拳を振るって、敵を薙ぎ倒せ――。


 俺は覚束ない足を引き摺りながら、何とかその場に立ち上がる。

そして、醜い蛮声と共に、一歩進もうとした時、後方より声が響いてきた。

これは、さっき確認した存在の声だ。


「――! 僕を見ておけ!」


 それは、一端の平組織員に飛ばすような口調なんかじゃなかった。

どこか懐かしさを覚える。まだ青く、軽い声音。

凛とした気品のある、青少年の声だった。


!」


 俺は、初めて公衆の面前で総統のを呼んだ。

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