4-24.求めるものは

※今回は、三人称視点で展開されていきます。



 ここは天空二階層――『英雄の領域』。

下界に二番目に近い領域で、現在はある『神様』によって占領されている。

そのことをゼウスが知ったのは、つい昨日のことであった。

例の『神様』は自分の研究室、その最奥に位置する、とある部屋の中にいた。

目の前には、物々しい容器が鎮座している。

どちらも同じ大きさで、中には何か得体のしれない脈動を感じた。


「もう少しだ……もう少しで完成する……」


 執念じみた、くぐもった声が空間を逆撫でした。

一柱しかいないこの部屋。嫌な声の響きが不快感を覚えさせた。

この声はタナトス。死の神タナトスだった。

彼の手によって、何かが始まろうとしている。いや、何かは疾うの昔から始まっていたのかもしれない。


「二柱の血さえあれば……」


 彼が渇望しているのは、血であるらしい。

それも二柱の血。これは『神様』、或いは『――』であるかもしれない。

何が目的なのか、知るところではないが、きっと良からぬことを企んでいるに違いない。

過去これまでがそうであったように。

でも、その全容を知るのは、彼だけである。


 その時、後ろから甘ったるい声が投げかけられた。


「あぁ! いたいた! タナトスぅ~!」


 彼が振り返ると、もうそこには影はなく、頬に何か押し当てられる感触。それは正しく唇だった。

そのまま肩口に重みを感じ、視界はで埋め尽くされた。

長い髪が揺れ動き、若干のいい匂いを感じる。

 彼女の名はヘラ。元ゼウスの正妻であり、結婚の女神のヘラであった。

胸元にどしんと圧し掛かるこの感覚にも、彼には慣れが来始めていた。

毎回同じことが自分に対して行われた。

一昨日も昨日も、そして外すことなく今日であっても。これには、飽きが来ても仕方がないだろう。

これの対応を毎日行っていたであろうゼウスは、凄まじいにも程がある。

別の意味でまた株を上げた瞬間だった。


「……はぁ。よぉ、ヘラ。元気してたか?」


「うん、勿論! それよりこれドラゴンだよね?

次のドラゴンにはまだかかるんじゃ……」


「フッ、おいおい見くびってもらっちゃ困るぜ。

このドラゴンはただのドラゴンじゃない!

『一千年』に一度しか創造することができない、完全体竜、その幼体だ」


「えぇぇぇぇぇぇええぇえええええ!」


 女神の絶叫が、その空間に響き渡った。

その絶叫も無理はない。

彼の言う通り、完全体竜の創造には、『今』の技術では『一千年』の年月がかかると言われているのだ。

この言葉から察するに、これは彼による研究の成果。

過去これまでが実を結んだ瞬間、正確に言えば実を結ぶ、その間近にまで迫っているということだ。

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