4-19.親子の邂逅Ⅱ

※今回も前回と同様、エク視点から展開されていきます。



 全部、僕から始まった。

僕がお父様、フール・ラスター・シセルを殺害したことを口に出してしまったことが、何よりも前に来る前提だった。

そこから、なぜか、ルビー・ラスター・シセルの名前が出てきて、困惑の中に『神種ルイナ』とかいう意味の分からない単語が散りばめられて――。

 でも、真実を見通すことによってわかったこともある。

俄かに信じ難いが、眼前、不気味な笑みを湛えながら、僕を見つめる存在は、リーネア・レクタの皮を被ったルビー・ラスター・シセルであるらしい。

どうやら我が一族の特権と言われる『神種ルイナ』の力によって乗っ取ることができるのだという。

何せその正体は――『寄生種パラサイト』なのだから。

もう想像を絶することが立て続けに起こっているせいで、反応も薄くなってしまう。


 僕らの一族の中で選ばれた神子と呼ばれる人物は、『神種ルイナ』に寄生されているらしい。

そして、その人物達だけが、魔法の行使ができるのだと知った。

 僕は小さい頃から、魔法を使うことができた。つまりは、僕も漏れなく『神種ルイナ』だったのだ。

そこから導き出される『答え』は、僕を生きていたのは僕ではなく、何か別の生物だったということ。

これまでの英雄の蹄跡も、僕の物なんかじゃなかった。

借り物の栄光に縋って、僕は過去これまでを生きてきたんだ。

これって、僕の身体である必要があったのだろうか。

誰でもよかったんじゃないのか。

僕だから歩める道は、最初から存在していなくて、僕が歩いてきた道は、端から他人の道だったなんて……。


 ――でも、僕はこれはこれでいいとも思った。

だって、僕の身体である必要がなかったにも関わらず、選ばれたのは僕の身体で、過去これまでを体験してきたのは僕のこの脳であることに変わりはないのだから。


 正直、力の理由がわかってすっきりしたところも大きい。

最初こそ焦ったが、もう大分と落ち着いた。

魔法を何度も行使したせいで疲れが出てしまっているが、まぁ、まだ倒れ込むほどでもない。

さて、どこから聞こうか。まだ知りたいことがある。

僕が『今』知れるのは、お母様ルビー・ラスター・シセルが頭の中で思い描いた真実のみだ。

考えが回らないことには、知る手段が存在しない。

ここでの会話が終われば、また作業の時間がやって来るだろう。

だが、ここの作業が終わったら『五瀑征ステルラ』に聞かねばならないことが沢山できてしまった。

いつもなら月二で開いているものだから話をするか……くらいの気分なのに、『今』ばかりは早く話を聞かせてほしいと思う自分がいた。

もしかしたら重大なことを隠されていた可能性がある。でも、同時に思う自分もいた。


――僕が人を見ていなかったから、こんな大事なことにも気付けなかったんじゃないかって。


 そう思うと、自分がどれだけ虚しく、小さい存在であるかが理解できた。

全てができることは確かに便利だが、それだけが正義でもない。

そのことに気付けたのは、僕にとって大きなことだった。


 ……だからなのだろう。

あれでもない、これでもない。聞きたい内容を考えていた筈なのに、何よりも先に出てきた言葉がこれだったのは――。


「ありがとう、お母様」


「……エク。貴方はいつも自分勝手だね。

流石はアタシの息子だ」


 どちらともなく笑顔になっていた。

気恥ずかしいような、でも、それでいて清々しいような、今日、僕は僕になれたのかもしれないな。

そんな独り歩きな僕の『答え』が、胸の中に浮かんで消えた。

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