4-16.満たされない『今』

※今回は、エク視点から展開されていきます。



 ここはスビドー王国。昨日までエラーがドラゴンとの激闘を繰り広げていた舞台だ。

最終的にはドラゴンに取り込まれ、ザビとへイリアという組織員によって征討されることになった。

 どうやら彼らはエラーの弟子だったらしい。

へイリアの存在は前々から知っていたが、もう一人、ザビという人物まで弟子に取っているとは思わなかった。

この名前には見覚えしかないが、人は一度死に絶えればもう生き返ることはない。それは、この世界の摂理だ。

だから、同じ名前の別人である方が可能性は高い。

というかそうでもなければ、全力で理解を拒む脳によって、一生頭痛に苦しむことになってしまう。それだけは避けたい。

……まぁ、きっとこんなに考えている方が馬鹿なんだ。

案外問題として挙がってくる奴は大したことがないことの方が多い。

そうだそうだ。そうに決まっている。


 そんなことを考えながら、僕はあちこちに散らばった瓦礫を一箇所に集めていた。

もう少しで、一旦の休憩時間に入る筈。そしたら、少しやってみたいことがあるんだ――。




×××




 僕は、このスビドー王国に思い入れがあった。

それもそのはず。過去、ここには何度か訪れており、記憶にも強く残っていた。

 一回目はまだ僕も王になるための訓練カリキュラムを受けていた時。

二回目以降からは訓練カリキュラムを受けなくなっていて、ただの観光目的だったり、お父様の付き添いで来たりしていた。

 ……あぁ、そう言えば。ここに来た時だったような気がする。

お母様が不倫に手を染めて、結局一族を追われるまでの騒動を引き起こしたのは。


 お母様は美しくも、性格や言動に少し難のある人だった。

よく私利私欲を満たすためだけに破格の金額を動かしていた。

その実情は、別荘を建てたり、自分専用の馬を購入したりと、本当にやりたい放題だった。

 でも、お父様は全てを認めていた。

最初からこういう人だって知っていた。こんな風に枠にとらわれない人だからこそ、私は結婚したのだよと、満足そうに話していたのを覚えている。

折角強く、誇り高い英雄としての器をもっていたのに、勿体ないことをしているとずっと思っていた。

お父様ならもっといい人がいただろう。こんなどうしようもない人を選ぶ必要はなかったんじゃないのか。

僕は一度たりとも愛を囁かれたことなんかなかったのに。それはきっとザビも同じだった筈なのに。

家族を愛さず、自分しか見ていない人なんかよりもっと――。


 僕の言葉は届かないまま、月日は残酷に過ぎ去っていった。

思いは募り続け、胸の内を黒く醜く穢していった。

 そんな鬱憤は思わぬところで、解放されることになる。

それが、例の隣国訪問時、そうこのスビドー王国にお父様が向かう時に、事件が起こってくれたのだ。いや、事件を起こしてくれたのだ。

あの時お母様が起こした勇気ある行動には、感謝してもし切れない。

特に変な理由付けをすることなく、誰が何と言おうと消す流れができたのだから。


 王都はお父様の世界だ。お父様という英雄が定義した世界において、不純因子など必要ない。

遅かれ早かれ、お母様は死んだ。

僕があの美しい景色を見ている時、最後の晩餐を楽しんでいたのだろう。

『今』も見えていたら良かったのに。

『今』に続いていたら良かったのに。

エラーが守護まもり切れば何の問題もなかったのに。

あんな弱い弟子風情に任せなければ、まだもう少し思い出に酔い痴れることができたのに。

 不満は止まなかった。苦言は誰にも届かなかった。

『今』も昔も変わっていない。英雄は一人でいい。だから、僕は――。


「お父様を殺したんだ」


 ポロッと出てしまった心の声に思わず周囲を確認する。すると、そこにはリーネアがいた。

一気に下がる体感温度に、二人はふるふると小さく首を振っていた。

お互い、信じられないとでも言うように。

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