4-14.太陽の当惑Ⅱ
※今回も前回と同様、アナ視点から展開されていきます。
アタイの眼前には、あり得る筈のない現実が展開されていた。
――そう、リアがアタイを見つめているのだ。
これは夢か現実か、その判別も付きやしない。
脳はもう何日も寝られていないし、アタイの腕も疾うに機能を低下させ、筋肉の悲鳴を如実に感じていた。
意識は辛うじてつながれているような状態だ。
三日三晩動き続けた身体では、そうなってしまうのも無理はない。
汗が染み込んだ三日前の寝巻は、変色に変色を重ね、冷たくアタイを包んでいた。
リアは死んだ筈だった。彼の意志は消滅し、ザビっちが食べてしまったのだ。
アタイにもう救いはないと、その時ハッキリ言い渡された。
誰にも手を差し伸べられることもなく、どこまで行ってもアタイには絶望しかないと、そう理解してしまったから、ここに閉じ籠って身体を痛め続けたのだ。
アタイは、生を感じていたかった。
これまではリアがくれていたけれど、そのリアが死んだなら、誰がアタイを前向きにさせてくれるのだろう。
ザビっちもシショーも、アタイを気にかけてはくれなかった。
まぁ、そもそもリアの代わりなんてできる訳がない。
それでも、少しでも話を聞いてくれていたなら、地面に立つことくらいできるかもしれなかった。
『今』のアタイには、それすらも望めない。ここしか居場所がなかったのだ。
「アナ、僕から話がある。時間は少ししかない。だから、落ち着いて聞いてくれ」
アタイは耳を疑った。
久しぶりに動いた脳、弾き出された『答え』は、待ち望んでいたものだった。
もしかしたら、アタイの耳が願望を爆発させ、そう聞こえさせただけかもしれない。
それでも、アタイには、確かにリアの声が響いたように聞こえた。
これは夢じゃないのか。紛れもない真実なのか。
わからない。わからない。あぁ、わからないけど、わかっていいって、アタイの背中を押してくれ。
一体、アタイは何を見ているんだろう。その『答え』を確定させてくれ。
困惑に次ぐ困惑が、腕に、足に、脳みそに、血液を激しく流し込む。
血管が膨れ上がり、脳から湯気が出ているように錯覚を起こす。
痛みもあった。でも、自傷的な
その頭痛は心地よかった。鼻血が垂れていくのがわかったが、ツーっと落ちるその直線さえ、愛してやりたくなった。
これが本物なら……そう言い切ってくれるなら、アタイはもう死んでもいいと思った。
疲れから来る幻聴でも、それはそれで本望だった。
その時、目の前のリアらしき人物から、確信が発される。
「僕は、君のリアだ。
間違えようのないへイリアで、幽霊でも、幻覚でもない、列記とした人だよ。
勝手に逝ってごめんな、アナ」
アタイの頬には、幾筋もの光が通った。
もう信じる。絶対信じる。
リアは嘘を吐かないのだ。
――『我世』に入っても、リアとの時間が増える訳ではないこと、つまりは、アタイを愛していながら、エラーを追い続けることを。
リアはエラーを超えるために、日夜修行をしていると言っていた。
アタイと逢うのも、最初から身体を休ませる週に一度だけに限られていた。
わかっていたのに『我世』に入ったのは、ただの希望的観測から成る願望があったからだった。
アタイが少しでも強くなって、『我世』における貢献度で上位に食い込んでいくことができたなら、もしかしたらリアも逢う時間を増やしてくれるんじゃないかって。
アタイと修行という名目で、一緒に過ごす時間ができるんじゃないかって。
結果は惨敗だったけど……いや、そもそも結果が出切る前に目論みは断たれてしまったけど。
それでも、その渦中で頑張る自分が、リアとちょっとでも向き合おうとしていると思えて、嬉しかった。楽しかった。充実していた。
ザビっちやシショーとも、より関わっていくことができるようになった。
多分、アタイは望み過ぎていた。
一つ叶えば、また一つ、また一つと、手を伸ばし過ぎていた。
これで、全てではない。それでも、一つ自分の中に腑に落ちるものが見つかった気がした。
「ねぇ、リア。貴方が本物のリアなら教えてくれない?
アタイと結婚したのは、なんでなのかなぁ?
アタイ達、全然一緒にいられなかった。それを嫌だと思ってたのも、貴方は知っていた筈だよぉ。
……じゃあさぁ、なんでアタイと共に往く十字架を背負うことを選んだのぉ?」
率直な疑問だった。
自分の中では、一つの『答え』が見つかった気がしたけれど、結局この事態が起こったのは、リアが結婚の申し出に乗ったことも関係している。
もし、アタイと対峙しているこの人物が本物のリアならば、リアの本当の気持ちというものを聞かせてもらいたい。
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