3-44.真夜中、寄り道、目的地

※今回も前回と同様、ロビ視点から展開されていきます。



 謎の存在、オズへの興味は加速度的に上昇していった。

ムネモシュネ様も、それを肌で感じ取ったのだろう。

私が口を開く前に、オズについて教えてくれた。


「オズはザビさんの弟です。

長いこと生き別れ状態のようになっていましたが、死ぬ前の数か月間は特別な存在になることができたんです」


 オズと呼ばれる人物は、お兄様の弟?

となれば必然的に私の弟ということになる。

私は五歳から十歳の間まで『禁忌の砦』に囚われていた。

その後の十歳以降も、エクお兄様から逃げ続けた先で『神様』の啓示を受け、そのまま天界へと行ったため、弟の存在など知る由もなかった。


「私に弟がいたなんて……」


「驚くのも無理はありません。

オズは、お母様とお父様の正式な子どもではないのですから」


「え……。それは一体?」


「大変申し上げ難いのですが、その、お母様が大臣と不貞を働きまして――」


 ……あぁ、そうか。私にはどこか納得するような瞬間だった。

お母様は、私に一切の興味を示していなかった。

自分本位に生きている、私のお母様への印象がそれしかなかったのは、そもそもの関わりが薄かったことが原因だ。


「そうだったんですね。全く知らなかったので、少し……。私も逢ってみたかったです、貴方が思いを寄せた、そのオズと」


「私だけではないですよ、オズも私を慕っていました」


「……素敵ですね」


「えぇ」


 ここで一度、一呼吸が置かれる。

このエイム・ヘルムを、『神様』の権能を借りて覗いた時、お兄様は誰かと楽しげに話していたことがあった。

多分、彼がオズだったのだろう。

 長い間、あの場所に身を置いていた存在。そこにいることだけは知っていた。

どうせなら、行ってあげればよかった。

私も家族と長い間離れていたから、一人の辛さはわかってあげられたのに。

一人で泣くより、二人で笑った方が楽しいのに。

 でも、一つ。幸せがあったとしたら、それはお兄様が元気を、笑顔を届けてくれていたこと。

お兄様が死ぬと、『忘れじの間』へと連れていかれ、自然治癒が促進される。

勝手に栄養も供給され、その中で転がっていれば、餓死することもない。

これは鍛冶の神ヘファイストスと我が番の神にあらせられる、時の神クロノスの合作で創られた正方形の部屋だ。

外から見ると死角が生まれ、特定の人しか辿り着くことができないという優れ物となっている。

この『忘れじの間』のおかげで、オズは一人にならずに済んだ。

これは、オズにとって最高の幸福だったことだろう。

ただ、殊今回の目的に関して言えば、この仕組みが仇となってしまっているのだ。

 話が変わる合図に、二回ほど咳払いをした。

空気が変わったことを察して、ムネモシュネ様も姿勢を正した。


「ムネモシュネ様」


「はい、なんでしょう」


「私にとっても、仲間達にとっても大事な話をありがとうございました!

ここからは、私が来た、本来の目的を話させてください!」


「はい、私も話し過ぎてしまいました。私にできることなら、是非させてください」


「今日、こんな真夜中にここに訪れたのは他でもありません!

貴方、ムネモシュネ様に、天界にいるゼウス様の元へ直談判に行ってもらうためです!」


「はいはい、ゼウス様の元へ…………って、えぇぇぇぇぇぇぇええええええ!」


いいんですよね! なら大丈夫です!」


「いやいやいや、無理無理無理! 無理ですってぇぇぇぇぇぇええええ‼」


 閑散としていたエイム・ヘルムに、数秒間の爆発が起きたのだった。

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