3-37.俺達の『答え』

 無理は承知だった。

理屈抜きの根性決戦、勝つか負けるかは己が決めよう。

 俺は次々と襲ってくる球を避けることなく、受け続けていった。

一発目の被弾によって上がった火の手も、消えることはなかった。熱さと痛さで、頭がおかしくなりそうになる。

今すぐにでも水に飛び込みたい。そんな思いを抱えながらも、標的ターゲットからは目を背けなかった。

あちこちから出血が起こり、辺りには血の焦げた匂いが充満していた。

足取りはふらつきが抑えられず、まっすぐ歩いていくことも困難になった。でも、前に進む足は動き続けた。

それに対抗するように、ベルウからも心の声が漏れ出していった。


「なんでオレがこんな風に落ちぶれているんだ!」


「お前達は、笑顔を見せてた! オレを前にしても幸せそうだった!」


「オレだって幸せになりたかった! 気軽に軽口叩いたり、笑い合ったりする仲間が、親友が、家族が欲しかった!」


「オレだって!」


 ベルウは両腕を振り下ろし続け、やがて四つあった残りの光球を全て使い果たした。

――俺は未だ、浅い呼吸を引き摺って、この地おうとに立っていた。

ベルウはどこか泣いているようにさえ見えた。俺の中に決意の炎が盛り始めた。

 俺は地面にしがみ付く足裏を、幾度も幾度も引き剝がした。

皮膚が無事かもわからない。筋肉が耐え切れているのかもわからない。

爪先から脳天にかけて、全身全霊がベルウに近付くために動いている。

 一歩一歩が激しく重かった。一歩一歩が激しく辛かった。一歩一歩が激しく苦しかった。

でも。それでも、止まらなかった。止まれなかった。思いが、意志が、全部全部流れてきていたから。

 各地で広がる殺意と絶叫の嵐。その中で勇気と蛮声の砦が、負けじとその場に立ち塞がっている。

王都は死なないと、人類は勝つんだと。だから、俺は、俺達は――。


「ザ、ザビさん……! なんで、なんでそんなことが!

なんでそんなことができるんですか⁉」


 真正面に辿り着いた俺目掛け、恐れ戦いたベルウが疑問を呈した。

そんな答え、最初から決まっている。

『今』ここで、全てが叫ぶこの言葉が、一番の返答だ。


「――この地に立つは人類なり。これが俺達の『答え』だから」


 そう言い切った俺は、ベルウの手を握り、視線と視線をつなぎ合わせる。

そして、続け様に口を開こうとした瞬間、ベルウは錯乱したように暴れようとしてきた。


「止めろ、いや、止め……止めて下さい! あぁ、まただ!

……またこうやって奪われていくんです! 結局、オレは、オレは……!」


 抵抗は秒を追う毎に加速していく。思わず離れた手に、危機感を覚える。

ヤバい。隙が生まれてしまった。もう魔法を――。


「『地獄変……」


 俺はベルウがその魔法名を言い終わる前に、固く抱き締めた。

逢った時からどこかおかしいと思っていた。コイツは何かを抱えていて、俺のところまで来た。

雰囲気が気味悪かったから、何となく察していたのだ。

そして、ケルーの兄であることを知り、さっきの言動を受けた。

予想は多分合っていて、だからこそ、この抱擁を受け入れた。

握手より抱擁の方が、強い結び付きだ。問題ない。

全てを推し量ることはきっとできないけど――わかったよ。ベルウ、お前を救おう。

魔法の限界、知ったこっちゃない。俺の身体が壊れるなら全くもって構わない。

三個いけたなら、もう二個くらい増えたって、何の問題もない……筈だ。


「ベルウ、きっとお前の望みは叶えられる。

――『捏造ファブリケイト』、そして『回顧リコレクト』」


 視界が歪み、ベルウと俺との境界線が薄く引き伸ばされ、消え失せていく。

俺達は記憶の海の中に、二人して誘われてゆくのだった。

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