3-36.勝ち戦を成さねばならない
※ザビ視点に戻っています。
俺はアナに目配せし、お互いの気持ちを高めていく。
この戦術は正しく一か八かだ。失敗すれば、死は絶対的に免れないものだろう。
だが、俺はこの戦術以外考え付かなかった。
自由な両手を使って、落ち着いて立ち上がり、大きく頷く動きを見せる。
すると、アナは待ってましたと言わんばかりの大声で、魔法の行使を宣言した。
「猛き者、気高き者にも苦心、挫折の時節あり。
我、太陽の光輝纏いて、彼等に煌々たる導を与えんとしよう――『
詠唱付きで放たれた魔法により、俺の元に光源が集まってくる。
力の根源たる光の導きだ。俄然、力が漲ってきている気がする。
別に魔法には詠唱が必要不可欠ではない。だが、魔法の威力に差異はなくも、術使用者には利点がある。
何を隠そう、
最高潮の
あくまで期待される程度ではあるが、信じて損することはないだろう。
「よっしゃ、ありがとな、アナ! あとは、俺に任せとけ」
「うんうん! でも、アタイ、まだザビっちの考えてることわかんないんだけどぉ」
言葉尻に揺らぎがあった。きっと不安で胸が一杯になっているのだ。
でも、言ってしまえば俺だってそれは一緒だった。表には出すことのない感情ではあるが。
「大丈夫だ、アナ! 俺は元々、天才なんかじゃねぇ!
だから、これまでだって場当たりで突っ走ってきたことも結構あった。
今回もその一つだ。でもよ、そんなんばっかだったけど、結局最後にゃ笑ってたじゃねぇか!」
「まぁ、ザビっちなら何とかしてくれるって、何となくわかるからぁ!
だから、つべこべ言わず見届けるよぉ! さぁ、思う存分暴れちゃってぇ!」
もう言葉は要らなかった。俺に必要なのは、これまでの蓄積の裏付け。
オズ、エラー、イノーさん、アナ、へイリアさん、リーネア、ハスタ、そしてロビ。沢山の思いを受け取った。
『今』もどこかで、同じ空の下で、同じ王都の中で戦っているのだ。
だから、俺は彼らから貰い受けた勇気と
「大爆発をくれてやる、誰もが羨む
――『
『
俺の足が動かないのは、強力な粘性によって両足共々絡めとられているからだ。絡まるならば、引っぺがせばいい。
『
この二つを以てすれば、こんなふざけた魔法も――。
「し、信じられない!
まさかあの究極の粘性をもったオレの光球を無理やり離そうとするなんて!」
「無理やりでも、我武者羅でも、結果良ければ全て良しだぁぁぁぁぁぁあああああ!」
最後の力を振り絞り、両足を別々に動かせる状態にまでもっていく。そして、そのまま前に進み出した。
「嘘だろ! 一歩歩くごとに足と地面とがくっついている筈なのに!
そんな粘着にはびくともしないじゃないか! クソッ、こうなったら――」
ベルウも負けじと持ち上げた両腕を地面へと近付ける。
残った五つの光球が、まとめて俺を襲ってきた。最後の正念場だ。
未だ俺もやったことないが、この土壇場でも成功させねば男じゃない。
「進め、進め、歩みを止めるな! 俺はこの王都を守んなきゃならねぇんだ!
だって、ここはエラーも必死に守った都市だから! ――『
重ね掛け、三連奏。これ以上の強化は不可能だ。
そもそも三つの魔法に身体が耐え切れるのかも不明。それでも、これにかけるしかなかった。
魔法の効果時間は限られている。速攻で決めに行かなければ、後は死に絶えるだけだ。
ベルウの赤黒い球も迫る。一つ、間近に迫った球が被弾した。
破裂音と共に、肌の焼けるような匂いが漂ってくる。俺の全身が煙に覆われた。
痛みはあった。生温かい液体も前腕を伝っていくのを感じた。
何かが燃えているのだろうか。どこからともなく熱すらも襲ってきていた。それも両腕、胴体、両足と、満遍なく均一にだ。
「そんな、バカな――」
煙の晴れた俺の姿を見て、絶句するベルウ。
なんと俺は、未だ、手も足も胴体についた状態で、生きていたのだ。
でも、全身が炎に包まれている。
何発耐えられるかはわからない。それでも、微かな灯に希望を見出すことができたのだった。
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