3-31.アンタの最強で、いいんじゃないのか?
※今回はまた戻って、へイリア視点から展開されていきます。
僕はイノーさんの言葉を待った。
『
その全てを注ぎ込んで、ようやくまとまった作戦なのだ。さぞ確実性の高い作戦に違いない。
『我世』の脳と言われる、頭脳派部隊『
否が応にでも期待せずにはいられなかった。
早くしなければ、最悪、件の塔にまで辿り着いてしまうやもしれない。
「では、早速ではありますが、その方法とやらを教えてくれないでしょうか?
『
テムさんのこの発言には、イノーさんも頷かざるを得ない。
本当に時間がないのだ。手短かつ、わかりやすく伝えてもらわねば困るというもの。
テムさんと同様、僕もイノーさんに念を押すように視線を送った。
「うむ、それでは肝心の作戦概要を発表しよう!
ここには『
それぞれ得意とする作業も、逆に苦手とする作業も異なっている筈だ。
だからこそ、ワシらは長所を活かし、弱点を補い合って戦うことができる!
そうだろう、皆!」
大手を振り、高らかに演説を始めたイノーさん。
時間がかかるかもしれない。
直感的にそう思った僕は、本筋の作戦概要に戻るよう促そうとすると、他組織員の面々から同意する声が沸き起こり始めた。
僕は一人、静かに頭を抱えた。
「そうさ、殊戦闘に大きな差があってもそれぞれできることは違っている」
「私は援護支援を得意としているわ」
「僕は避難誘導」
「俺は何と言っても戦闘だ」
「おうとも! ワシら『
「私達『
「俺ら『
「『
先ほどの戦い、彼らは素晴らしかった!」
理解はできた。組織員達を扇動し、士気を高めたいという魂胆だろう。
確かに、誰も彼も全てに劣等の烙印が押されている訳ではない。
出来不出来があることは当たり前で、だからこそ、できることには全力で情熱を注ぐことができる。
とはいえ、もう
急がなければ、父さんと同じ轍を踏むことになってしまうかもしれない。
それだけは、それだけは避けなくては――。
「さて、そんなワシらが強大なあの
全部で手順は四つだ。だが、一つはもう終わった」
「終わったとはどういう?」
「ノホホ、それはワシらの会議に他ならん。
第四部隊が頭脳を名乗るのであれば、当然組織員達の司令塔として、戦う姿勢を見せねばならないだろう」
「わかりましたわかりました。
十分理解が及びましたので、中身を――これから行うことを教えてください!
僕達は何をすれば?」
待っていられなくなった僕は、イノーさんに『答え』を催促する。
どうしてこう、回りくどいのだろうか。さっさと言えば、超えられる壁があるというのに。
「へイリア隊員、ご忠告ありがとう。
ワシもこの現状がどういったものかは理解しているのだがね、しっかり説明せんとわからないと思ってな。
今、こう諭す時間も……」
イノーさんが『今』を理解などしていないということを、僕は理解した。
聞く耳は途中で破れ落ち、残った頭が行動を起こした。
予備動作も無しに方向を転換し、爪先に力を込める。靴と地面とが熱を生み出したと同時に、空中に砂塵が舞った。
走り出した僕をもう止める者はいない。
僕は恐らくこの中で一番強い。僕が勝てなければ、きっと他の誰にも勝てる相手じゃないだろう。
――だから、勝って証明する。
――だから、勝って安心させる。
――だから、勝って父さんに追いついてやるんだ。
「お前を葬り去るのは、この僕、へイリア・マルッゾだ!」
僕は一人先行し、
後ろから何かを叫んでいる声が聞こえている気がするが、こうして飛び出してきた僕には必要のない言葉達だろう。
さっきは良くも悪くも魔法に頼り過ぎていた。どれだけ強かろうと、確実はないことを切に教えてもらうことができた。
この失敗をいい経験だったって、笑い話にできるような明日を僕が連れてきてやる。
そうこうしている内に、大剣の一振りには十分な間合いまでやってきた。
大剣はやはり重かった。いくら鍛えていても、自分の身長とさほど変わらない鉄塊を持つのは大変なことだった。
すぐにでも地面に落とせれば、きっと腕は楽になるのだろう。
走るのだって、もっと早くなるに違いない。
拳で戦うことを選べば、大剣を振るより手数も速度も段違いに改善されるのだと思う。
それでも。父さんの強さ、憧れの原石、成長の実感。揺るがない三つの原動力が僕に大剣を振り被らせた。
避けられることも覚悟の上だ。その次、その次の一手まで、予測し頭の中では繰り返し予行演習がなされている。
……自分の身体のことは全くの度外視にして、だ。
父さんが幾度も幾度も大剣を振るえていたのは、きっと魔法のおかげだった。
僕には魔法がない。だから、父さんのようにできなくても何もおかしいことではないのだ。
でも。だからと言って。僕が父さんを諦められる理由にはならなかった。
それは寧ろ僕が父さんを追いかける理由になった。
こんな無能な僕の身体で、父さんみたく世界を救えたら、どんなにか格好いいだろうと。
父さんは世界の平和のために戦っている。それは、世界に幸せを運ぶこと。
僕だって、同じように幸せを、笑顔を運んでやりたかったから。だから、こうして自分に見合わない大剣だろうと、
垂直をたどった軌道は――無様に避けられていた。
力を込めた一閃に、身体ごともっていかれそうになる。
重心のズレた僕は、そのまま地面に吸い込まれるように倒れていく。
その好機を
黒く淀んだ口の中。微かに燃える火種の存在に、僕は気付き、死を悟った。
ここに
もう、終わりなのか。結局、無能の僕に、ただ笑っていることだけが取り柄の僕に、父さんを超えることはできなかった。
今にも噴出されんとする
「おい、勝手に諦めてんじゃねぇよ!」
突然、何者かに引っ張られる感覚が肩口に走った。
近かった熱源が一気に遠ざかっていく。
目を開くと、『
「大丈夫か? 危ないところだったな」
「イノーさんの話は……もう終わったのですか?」
焦りを感じながらも、僕は状況把握に努めようとした。
僕は一度死にかけた。これは間違いなく言えることだ。
でも、こうして他隊員が助けてくれている。
「あぁ、バッチリ終わった。この作戦の鍵はへイリア隊員、アンタなんだよ」
「僕が、鍵……?」
「何も不思議なことじゃない。
ここにいる組織員の中で最も強いのは、きっと誰に聞いてもアンタと答えるだろうよ。
皆、アンタのこと、認めてんのさ」
「いや、でも。僕は父さんみたく、大剣を扱うことはできませんでした。
一度ならず、二度までもです。こんな僕に期待されても……」
(パチンッ!)
さっきまで見えていた白い歯を隠し、命の恩人は僕をはたいた。痛さよりも衝撃が強かった。なんで、怒ったような表情を僕に向けるのだろう。何一つ理解できなかった。
「アンタの強さは本物だ。それだけは絶対に忘れちゃいけない。
エラルガさんは確かに強いかもしれない。
でも、アンタだって強いことに変わりはないんだ」
「僕は、父さんを超えなくちゃいけないんです。
父さんはきっと、僕のためにこの『我世』に残っているのですから。
今も戦い続けているのは、僕に最強を証明してみせるためなんだと思います。
その思いには、答えなくちゃ……」
「エラルガさんは大剣が全てなのか? ……そうじゃないだろう。
さっき見ていたが、大剣を振るうにはまだ身体ができていないらしい。
それと大きさももう一回り小さいものの方がいい。
でも、エラルガさんを超えることは、何もかも全てを真似しなければいけない訳ではないんじゃないのか?」
「いや」
「アンタの最強で、いいんじゃないのか?」
僕はハッと息を呑んだ。
これまでの意識は全てにおいて、父さんを超えなくてはならないと、そう躍起になって修行をしていた。
いつか今日のような大剣を扱えるようになろうと、
誰にも
もしかしたら、間違っていたのかもしれない。
僕は、静かに胸の高鳴りを感じていた。
肩口には掴まれていた時の熱が残っている。
「あの、教えてくれませんか。『
真正面から捉えた双眸。初めてお互いに視線が合った瞬間だった。
裏では、『
「ハハ、あったりまえだ。一つは件の作戦会議。
お次は、『
よって、その機動力を削ぐため、両翼と、できれば足の破壊までできたらと思っている。
その次は、『
「はいよ、頑張ってくれな」
その大柄な体格に似合う
多くの組織員が一斉にかかることも大事だが、限度もあるし、そもそもその人達の適正に合っているかどうかもわからないのだ。
この方が効率的で、理に適っていると言えるだろう。
「で、最後の四つ目ってのはなんなんです?」
「おいおい。言わすのか、ソイツを。
……決まってんだろ、アンタさ。へイリア隊員による、トドメの一撃。
やはり
「買いかぶ……」
途中まで出かかった言葉を、空気と共に体内に押し戻す。そして、ギュッと手に力を込めると、その拳を胸元に叩き付けた。
「わかりました。本物の強さってヤツを見せつけてやります!」
『
僕は大きく二度頷きながら、笑顔を見せるのだった。
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