3-28.笑い虫、大剣を振るう

※今回は、へイリア視点から展開されていきます。



 商業特権区域ルキウム、第二通り。

僕は件のドラゴンと既に対峙していた。

テムさんの先導によって、僕達は比較的短時間で標的ターゲットを見つけることに成功した。

 僕ら『燈釐草トリア』の他にも、『火這ドゥオ』や『詮仁咲カトゥオル』、『風僭倢クイークエ』の面々も集まっている。

いくらドラゴンでも、これだけの大人数を相手取るのはさぞ体力、魔法力共に消費することだろう。

 人類の利はここにある。一人一人の個が弱くとも、力を合わせて戦うことで何倍にもその力を増大させることができるのだ。

 今もドラゴンは周囲の建物を破壊しながら、中心に向かって進行してきている。

まずは、情報が欲しいところだが、立っているだけで教えてくれるなら存外楽なことはない。現実はそう甘くないのだ。


「テムさん、かのドラゴンはどの『神種ルイナ』の能力をもっているんでしょうかね?」


「それを確かめるために、私達は今、ここにいるのでしょう。

何事も最初は殴ってみるものですよ。

そしたら、何かがわかるのではないでしょうか?」


「それもそうですね! じゃあ、僕。先陣切ってもいいですか?」


「あぁ、それは勿論! ……おや、何か声が聞こえませんか?」


「え? 本当だ、塔の方角からですね」


 二人が後ろを振り返ると、その小さな身体を存分に背伸びしながら、大きく手を振る存在がいた。


「おーい! 皆の衆、イノーが来たぞ! 戦況はどんな感じだ?」


「おお! イノーさんじゃないですか! よくぞ来てくださいました!」


「イノーさん! 結婚式の時はどうも!

今、こちらから攻撃を仕掛けていこうかと思っていたところです!」


 ようやく僕らの目の前まで辿り着いたイノーさんは肩で息をしながら、親指を突き立てた。


「ハァハァハァ……。なるほど、いいだろう! ならば、ワシが君達を助けてやる。

我が魔法を以てして、最大限の援護をしてやるぞ!」


「本当ですか! 助かります。では、早速よろしいでしょうか?」


「おうおう! 任せておけよ! さぁ、往くがいい」


「はい! うぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!」


 僕は、ドラゴンとの距離を一気に詰めていく。

今日は、大剣を携えてきた。父さんも武器として使っていた、言わば父さんの徽章シンボルマークだ。

これで勝って、また一歩近付いてみせる。

 ドラゴンがこちらの攻撃の意志に気付いた。

後ろを振り向いて、目配せをする。イノーさんも白い歯を見せてきた。


「どこのウマの骨だか知らないが、勝手に人様の庭を荒らすでないぞ!

礼儀を知るためにも、自分のことを『石』とでも思っておけ!

――『捏造ファブリケイト』」


 なるほど、ドラゴンに自分は『石』だという真実を植え付ければ、こちらの攻撃も通るし、相手からの反撃も受けないで済む。天才だ、イノーさん。

僕は、背中から引き抜いた大剣を振り被り、眼前のドラゴンに叩き込もうとした。が、次の瞬間。

そのドラゴンは『石』である筈なのに、僕の一撃をすんでのところで避けてみせたのだ。


「何ッ⁉」


 最初に声を上げたのはイノーさんだった。

僕はただの一言も発せられぬまま、ドラゴンの尻尾の餌食となり、そのまま瓦礫の山に飛ばされてしまった。


「このドラゴン――魔法が効かない!」


 大剣の初戦。それは苦しいせめぎ合いから幕が上がった。

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