3-27.後世に残るド派手な軌跡

※今回も、エク視点から展開されていきます。



 咄嗟に標的ターゲットから距離を取り、業火を躱す。

もし本当に複製体探真竜ならば、頭で考えている行動という名の真実を全て見抜かれてしまう。

それが意味することは、ある種未来予知と同義だ。

相手に攻撃手段が残らず筒抜けとなってしまうのだから。

ドラゴンは虚無に業火を吐き出し、僕を威嚇している。

僕が戦闘で手古摺る訳にはいかない。『我世』の名の箔が落ちることにつながってしまう。

それだけは避けるんだ。僕が、この世界で圧倒的な中心でいるために。

 僕はドラゴンを睨み付け、両手で光の弓矢を構える。

ドラゴンの魔法力は計り知れないが、無尽蔵でないのも事実。

こうしていつ攻撃をするか分からなくさせておくだけでも、牽制の有効打になり得ることだろう。

 僕が今から複製体探真竜を倒す方法は二つある。

一つは脳内で思い描くことと現実で起こす行動を変えること。これは意外と簡単だ。

僕はイノーの魔法を全て見たことがある。つまり、完璧に使いこなす事ができるのだ。脳内を『捏造ファブリケイト』で弄れば、楽に敵を欺くことが可能だろう。

そもそも僕は演技派。何故ならば、数年に渡って芝居を続けざるを得ない状態にあったのだから。――でも、それじゃ派手じゃない。

観客には、派手が鮮明に脳を刺激する。だから、僕が選ぶのは楽な道などではなく、寧ろ後者。

僕を僕たらしめる英雄の戦い方をして魅せる。


「『ウル』、住民の避難は終わったか? 『ヌラ』、敵は他にいなかったか?

そして、『ムース』。お前達はドラゴンに武器を向けろ!

もしやりたければ撃ってもいいが、僕より目立つようなら容赦はしない!」


「こちら、『ウル』。住民の避難は完璧に終わりました!

あと、これは私情なのですが、いいでしょうか、総統?」


「なんだ、リーネア。今、どんな状況か理解しているのか?

さっさと話してみろ!」


「はッ! ありがとうございます! 我ら『ウル』、任務は完了致しました!

ですから、『ウル』にもドラゴン討伐のお手伝いを……」


「おい、リーネア」


「はッ!」


「それは、『ウル』の総意なのか? 僕にはお前の独断のように見える。

ほら、後ろに控える『ウル』の隊員達を見てみろ?」


 『ウル』はリーネアを除いて、皆首を横に振っていた。当たり前のことだ。

ここで意見すること。それは、僕の時間を取らせることにつながる。

そんなことをしたら、僕が機嫌を悪くし、最悪自分の首がとぶかもしれないのだから。


「やる気があることはいいことだ。でも、この世界で一番輝くのは僕だ。それは変えられない事実。

だから、君達は誇らしい仕事をしていると思ってくれていい。

わかってくれ、リーネア。僕は君のことをとても買っている」


「はッ!」


 リーネアは下がっていった。それでいい。

今日のところは見逃してやろう。次はない。

 それから『ヌラ』、『ムース』と報告が続き、愈々舞台は整ったというところ。

ここには他の敵も見当たらず、この一体を仕留めれば終わりになる。

『ムース』の面々も各々武器を構え始め、ドラゴンをいつ攻撃してもおかしくない状況を作り出すことができた。

 僕がこのドラゴンを倒すもう一つの方法。それは――。


「まずは、瓦礫をこの左手に集める――『物集コレクト』!

そして、物質そのものを造り替え、鋼鉄の塊アダマンタイトを生成する――『改造リビルド』!」


 正面突破でぶっ飛ばす。

小細工は本人が楽しいだけだ。大事なのは、後世に残るド派手な軌跡。

夢のためなら、僕はいくらでも死ねる。

重い左手を引きずりながら、段々と速度を上げ、ドラゴンへと肉薄していく。

栗色の瞳が困惑の色を見せた。僕の口角はグッと引き上げられる。


機会チャンスは一瞬だ!

魔法の解けた直後に『強筋ブースト』を用い、筋力覚醒パンプアップ

そのまま最大火力をお見舞いし、この勝負にケリを付ける!」


 口を回らせながらも、その速度は落とさない。

ここまでは自力でやらなければ、勝負にすらありつけないのだ。

最適な間合いに到着し、その脹脛ふくらはぎに、その太腿ふとももに力を込める。

そして、一気に飛び上がった。

さっきまで使っていた魔法を解除する。


「英雄は決める時にはしっかり決める! 『今』がまさにその時だ!

――『強筋ブースト』!」


 めり込むドラゴンの顔は苦渋に歪んでいるように見えた。

重力も従えつつ、渾身の一撃がドラゴンを潰していく。

沈む身体。視界の端に罅の走っていく地面が見えた。

刹那。弾ける音と共に、鮮烈な赤が通りを彩った。

 僕が空に拳を掲げると、元の瓦礫に戻った鋼鉄の塊アダマンタイトがパラパラと崩れていった。

周囲にいた第一部隊隊員達はまばらに拍手を送り始めたかと思うと、次第に大歓声となって僕を祝福した。

僕はボロボロの身体を忘れたまま、ただその感動に酔い痴れていた。

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