3-25.己の生きる道

 まだ謎が全て解決された訳ではない。

いくら魔法が全て使えたからと言っても、魔法の特性を変えることは難しいのではないか。

先ほどの『干渉共有オーバーサイト』はイノーさんオリジナルの魔法の枠を著しく超えていた。

そんなことが可能であるならば、もうエクがいれば全て解決になってしまう。


「大いなる力には代償が伴わなければ、釣り合いが取れない、ザビ少年はそう思っているのだろう。

勿論、エクだって何でもできる訳ではない。

エクには魔法に時間制限と使用回数制限がかかっている。

それらによって、一度に使える魔法は二つだけだし、使用時間も三時間のみだ。

とは言っても、人類最強の座は揺るがないがな」


 なるほど……。

それだけ制限がついていたとしても、全くもって弱いという感情が芽生えてこない。あって然るべきとさえ思える。

ということは、さっき宣誓で使っていた魔法は『干渉共有オーバーサイト』と『捏造ファブリケイト』といったところだろうか。


「やっぱ、強ぇな、エク」


「当たり前だ、なんせ世界を背負って戦ってるんだからな!」


 俺達がエクの話題で一頻り盛り上がったところで、遠くから数十人の足音が聞こえてきた。

俺はその先頭で、隊列の指揮を執るアナに手を振る。


「おーい! 集めてきたかぁー?」


「ばっちりばっちりぃ! この通りだよぉ!」


 アナの後ろを確認すると、二十人ほどが束になってこちらに向かってきていた。

上々の出来じゃないか。


「よっしゃ、アナ! お前最高だぜ!

……あ、えぇと、来てくれたみんな!

人手の足りていないところなんて山ほどあるんだ。

ここに急いできてもらったとこ悪いけど、早速本題の事態収拾のために動いてくれ!」


「元からそのために来たんだ! 任せとけ!」


「さぁ、どこに行けばいい? 指示をくれ!」


「俺が来たからにはもう安心だ!

さっさと活躍させろ!」


 皆やる気充分の気持ちの良い奴らだった。

軽口を叩き合いたい気分だが、そうも言っていられない。

何人かの集団をつくらせ、その纏まりごとに人手を必要としている場所場所へと向かわせた。

そうして、残ったのが俺とイノーさん、そしてアナだった。


「これで何とか最小限の損害で食い止められるんじゃねぇか?

俺達は俺達で黒幕と思しき存在の元へ行ってみよう!

もしそうだったなら、叩いて叩いてぶっ倒すだけだ」


 二人は俺の言動に白い歯を見せた。

三人で頷き合うと、俺達もすぐ、カーヌス通りに向けて足を運び始めたのだった。




✕✕✕




 あの角の先にカーヌス通りが伸びている。

俺の心臓は知らず、高鳴っているのを感じた。

ここ数週間、誰とも争ってこなかった。

血に飢えていると言えば誤解されそうだが、練習台は必要だった。

一人修行の成果を見せる。こんな晴れ舞台、願ってもみなかった。

ドラゴンも踊れば、人々も逃げ足に合わせて靴が鳴る。

このお祭り騒ぎで一番輝くのは、この俺だ。

角を超えた先、そこには殺気に満ち溢れた謎の存在がゆっくりと歩みを進めていた。

その足を止めないままに、その存在は俺に言葉を飛ばしてきた。


「貴方の名前は何ですか?」


 随分と礼儀正しい侵略者だ。妙な薄気味悪さに頭の疼く心地がした。

どんな姿、どんな態度、どんな口調でも関係ない。

俺に、俺の周りに、この世界に害をなすならば、許しておけない。

これが真理だ。これが信条プライドだ。これが己の生きる道だ。


「はぁ⁉ 俺はザビだ!

そして、お前をぶっ倒す者だ!」


 ぶちまけた宣戦布告に、頬を赤らめる侵略者。気持ちが悪いにも程がある。

無関係の人を巻き込んで、コイツは、無暗に、無策に、無感情に、惨殺の限りを尽くす輩。

絶対に、俺がこの手で葬ってやる。

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