3-24.正しく『神様』

 ――俺は、王都の『今』を見た。

王都は荒れに荒れていた。

その火の手は至る所から上がり、人々の阿鼻叫喚を呼んでいた。

まるで御伽噺の地獄が地上に再現されているかのようだった。



「――王都の状況は、前回の王都竜討伐戦を遥かに凌ぐ惨状になっちまってるぜ!

このままじゃ完全に陥落するのも時間の問題だ。

特に被害が酷いのは、中級階級区域オプティマスと、その隣の商業特権区域ルキウム。

次点で、それらの反対側に位置している上級階級区域ノービリス、そしてその隣の商業特権区域コンメルだ。

そして、ドラゴンは現在、その二つの商業特権区域にいる」


「でかしたぞ、ザビ少年!

そうか、王都における二大経済特区が潰されかけているというのか……。

上級、中級はいいにしても、前者だけは被害を最小限に抑えねばならないな」


「イノーさんも大分と黒いっすね」


「ノッホッホ。ワシとしては汚れのない白だと自負している。

この白衣のようにね!」


 どこにその白い要素があるというのだろう。

ツッコミ待ちの表情は見せているものの、こんな危機的状況で行うやり取りではないことくらい理解している。

ここは無視することにした。


「ハハハ。今はふざけている場合じゃないだろ。

……あぁ、そうだ。言い忘れていたけど、何か怪しい人影があったぜ?

明らかに普通の人とは覇気オーラが違っていた。

もしかしたら、ソイツが黒幕かもしれねぇな」


 俺の無視は多少堪えたのか、心臓を抑えるような仕草を取った。

が、黒幕の話が出ると、また新たに姿勢を正して耳を傾け始めた。


「ほう。そんな大事な情報を隠し持っていたとは。

覇気オーラの違う人影なぁ……。

場所を案内してくれ、ワシらでソイツの元に向かうぞ!」


「端っからそのつもりだ!

ソイツはカーヌス通りを『世界の黄金郷メディウス・ロクス』に向かって歩いてきているみたいだったぜ!」


「とりあえず、エクにも報告をしておいた。

エクから他の組織員にも今後の作戦方針が語られると思うんだが……。やっと来たな!」


――全『我世』組織員に告ぐ。

現在、皆わかっての通り、王都が何者かの手によって襲撃を受けている。

敵はドラゴンが二体と、その他に謎の人影を見たという報告があった。

これより組織員各位は、発表する区画に向かい敵を食い止め、あわよくば撃退をして頂きたい!

その区画とは、二大経済特区、コンメルとルキウムだ。

どちらに行くかは各位に委ねる。己が行くべきだと思った方に行ってくれ。

まぁ、勿論、怖気づいて逃げる組織員などおるまい。

さぁ、決戦の時だ。ただいまの時刻をもって――『第二次王都竜討伐戦』の開始を宣言する!


 脳内に無断で流れてきた宣誓に動揺が隠せない。

どうしてエクは全体に向けて、この『干渉共有オーバーサイト』が使えるのだろう。

干渉共有オーバーサイト』にはそれなりの危険リスクがある。

お互いの脳をつなげる関係上、それ程多くの人には干渉できない筈だ。

そもそも干渉存在に登録しておかなければ、干渉すらできない。

俺はエクに干渉存在に登録された記憶がない。

 イノーさんの方を向くと、俺の焦りに気付いていたのか、ニヤニヤした顔でこちらを見てきていた。


「ザビ少年。どうやら君はエクの秘密が知りたくて知りたくて堪らないようだね。

どうだい、教えてやろうか?」


「なんだよ、秘密って?

アイツに何があるって言うんだ?」


「ほほう、いいだろう。教えてやる。

エクは――全ての魔法を使うことができる『強戦者』なのさ!」


「『強戦者』……!」


「まぁ、でも。一度自分の目で見る必要があるのだがな」


「は、いや、でも。それって正しく……」


「ノッホッホッホッホッホ。

そうだ、正しく『神様』だ!

それも、誰もが認める『神様』の中の『神様』――全知全能の神ゼウスのようなな!」


 俺は暫く固まってしまった。

人でありながら、『神様』の所業をこともなく熟す存在。それこそが、俺の兄、エク・ラスター・シセルだった。

考えられない。許されていい存在ではないのだろう。――そうか。

『神様』が気にくわない理由が少しわかった気がした。

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