3-23.強者の詮索
俺は件の『
流石は、世界のどの地点からも視認できると言われている、地上の
その真下に立つと、首の可動域では収め切れないほど高い。
今からこれに登ると思うと、とんでもなく途方もないことのように感じる。
だが、こんなところで怖気づいている暇はない。
今日まで重ねてきた鍛錬の日々はどこにつながるのか。
言うまでもないだろう。今、この瞬間、人々を、王都を、世界を救うことにつながっているのだ。
「今に見ていろ、侵略者!
お前達の好きにはさせねぇ!
この俺が、みんなまとめてぶっ飛ばしてやる!」
「おい、そこで何をやっている平組織員!
お前もどこかしらの防衛に手を貸せよ!」
俺が決意表明を叫んだ時、塔入口の方角からお叱りの言葉が飛んできた。
聞き覚えのある声音だった。
声の主を確認しようとすると、そこにはエク率いる『
そうか、この声はエクから発されたものだったのか。
改めてじっと顔を見つめる。幾年ぶりかの再会だった。
勿論俺は仮面を着けており、相手には俺だとわからなくしてある。でも、肉親であることに変わりない。
俺はエクの前で一度死に絶えた。
そうだ。俺のここに入った目的は、己自身を知るためだ。
エクには良くしてもらう必要がある。それも、俺をザビだとわからせないようにして、だ。
そうなれば、話は早い。
「どうも総統さん、お世話になっております!
いつもこうした平組織員達へのお気遣い、深く感謝しております。
今、俺は指示もなかったものですから、この塔の上へと登って王都の現状を確認しようとしているんです!」
日頃の感謝を含めた敬語報告。
いつもの柄ではないことは重々理解しているし、何ならそのいつもの柄も先ほどの決意表明によって既にエクにバレてしまっている。
だが、ここで頭を下げておかなければ、後々の関係に罅が入ってしまうかもしれない。
俺の中での最適解だった。
「お、おう。そうか……っておい!
この塔に登れるのか、ザ、いやお前!」
今、一瞬ザビと言われたような気がする。
ここは全力で話を逸らして、行動を強引にでも進めなければ。
「はいはい、勿論登れますとも!
見ていてくださいね!
すぐ戻ってきますからぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ‼」
俺は言葉の最後まで語り尽くす前に、エクの横を突っ走って、塔の壁をよじ登り始めた。
エクの表情は見られなかったが、きっと驚きに顔を歪めたことだろう。
腕を掴まれることも危惧したため、一瞬、『
俺はただ上を見て、進み続けるのだった。
✕✕✕
取り残されたワシとエク。
上を見上げながら、ザビ少年の勇姿に密かな応援を送っていた。
テムとベルは、各所で繰り広げられているであろう防衛戦の様子を見回りに行った。
エクは呆然としてワシの顔を見てくる。
「あれだよな、ザビ少年って言ってた奴」
「あぁ、そうとも。彼がザビ少年だ。
勇敢な男だろう」
「いや、まぁ勇敢であることは認めるが、なんかな……。
妙な違和感がある」
「違和感? 何を言ってるんだ!
そんなことばかり言っていると、状況はどんどん悪化するぞ! ほら……」
「いやぁ、名前といい、声といい、行動といい、どこからどう見ても
「わぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!
ほらほら、喋ってる暇なんかないだろ!
さっさとテムやベルと一緒に戦況の確認に行ってきてくれ!
ワシはここで少年の帰りを待っとるから!
帰ってきたらまた『
はい、急げ急げ!」
ワシは早くどこかに行ってほしい気持ちが抑えられず、強めの力でエクの背中を押していく。
押しやられるように、エクの重心が前へと傾いた。
倒れそうになったところをすんでのところで耐え切るエク。
「なんだよ、急に! ったく、しゃーねぇ。
――『
エクもその場から飛び出させることに成功した。詮索されて得することはこちらに何一つない。
現在の状況を鑑みても、そんなに悠長に会話をしている時間もないのだ。
恐らく今回のザビ少年の行動は、吉と出たことだろう。
ワシは一人、孤独に笑みを浮かべた。
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