3-22.空上に馳せる
俺はその日も変わらず、一人修行に励んでいた。
準備運動としての寮内三周、『ドドムス』内の体育館にある
『座禅』は、未だに何が正解かはわからない。
それでも、精神を安定させ、魂を研ぎ澄ませる感覚をもつことだけは常に意識しながらやっていた。
組まれた足の痛みも、周囲から発せられる雑音も、何もを無にして魂に集中を溜めていく。
すると、どうだろう。寮内に溢れる魂の脈動が波紋のように脳内に伝わってくるのが理解できるのだ。
この波紋は時間の経過で強まっていき、次第に自分の存在が消えかかるような状態がやって来る。
こうなったら、終わりの合図だ。今日もまた、例にも漏れず消えそうな衝動が全身で湧いた。
でも、どこか今日のは違っているような――。
(パンッ!)
危なくなった時は、両手を強く打ち鳴らし、身体を現世へと定着させる。
消失する感覚において、その消え切る最後までやったことはない。
だが、何となく、直感的に死ぬのではないかと思っている。あくまで直感でしかないが。
……兎にも角にも、この現象は数日前から起こるようになったのだ。
これがエラーの言っていたことなら、或いは――。
「ザビ! ヤバい、緊急事態だ!
王都が二体の
お前も早くこっちに来いよ」
「王都に敵襲⁉ ヤベぇじゃねぇか!
場所はどこなんだ?」
「場所?
如何せん意味がわからないな」
「そう、だな……」
一人修行はリアに倣って行い始めたことだ。
ここに来て情報の伝達に遅れが出てしまうとは何とも度し難い。
今後は少し考えていく必要があるかもしれない。
そんなことを考えながら、俺も戦闘に参加するため、体育館から飛び出していくのだった。
✕✕✕
『ドドムス』は幸か不幸か『
上からの指示は貰っていないが、どう動いていけばよいのだろう。
恐らく多くの組織員が南の
だが、敵は王都全体の外側から攻め入ってきているらしい。
それならば、指示はなくとも近場ではなく、少しでも遠くに行って人命救助もとい、敵方の討伐をしていった方がよい。
よし、決まりだ。
自分の中で作戦を立て、行動を開始しようとした時、南東の
「おい、誰だ? ……まさか、アナか!
アナなのか⁉」
「ザビっちぃぃぃぃい!
無事ぃぃぃぃいい?」
なんとその人影はアナだった。
一週間ぶりの再会がこんな時になるとは。でも、会えて嬉しかった。
右腕を上に突き出し、左右に振った。
すぐに目の前まで辿り着いたアナは、俺と固く握手をした。
「アナも無事だったようだな。良かった」
「うんうん。でも、今あちこちで火の手が上がって大変なことになってる。
アタイ達が対処しないと、多くの人が犠牲になってしまうねぇ」
「あぁ、その通りだ。
だから、今すぐ行動したいんだが、何か指示は受けてるか?」
「さっぱりさっぱりぃ!
とりあえず一人でできることは少ないと思って、誰かと合流することを優先したよぉ!
で、ザビっちの方はぁ?」
「俺もまだ指示は受けてねぇ。
だけど、皆が皆同じとこに向かう訳ではないはずだから――」
俺は決定した作戦をアナに話した。
アナは納得するように一、二度頷いて、俺に親指を立ててきた。
「おっけぇおっけぇ!
じゃあ、そんな感じでいこう!
でも、アタイにいい考えがあるよぉ!」
「なんだ?」
「ただ闇雲に遠くに行っても、もしかしたらそこで
だから、まずはあそこに向かおうよぉ!」
そう言って、アナが指差したのは、中央に聳える摩天楼――『
「いや、真ん中はそもそも通るだろ?
そうじゃなく……」
アナの発言の真意に気付けなかった俺は、アナを諭すようにものを言わんとした。が、その俺の発言を遮り、アナは核を語った。
「違うよ、ザビっち。アタイ達が通るのは地上ではなく、
あの空高く伸びる塔の上に登って、そこから王都全体を見渡そうと言っているんだよぉ!」
「空上か……。その発想はなかった。
そうだな、そうすればよりどこに向かうべきかわかるな!
その線でいこう! ……でも、待て。
なら手分けした方が良くないか?
俺が塔を登って見てきてやる。
だから、その間に組織員達を集めてきて、人手の要りそうな場所にどんどん人を送る準備をするんだ」
「そうだねぇ、ならアタイがなるたけ人を集めてくるよぉ!
じゃ、善は急げだぁ! 幸運を祈っているねぇ!」
「いや、待て。あと一つやることがある」
そそくさと走り去ろうとするアナの手を取る。
アナは不思議そうな顔でこちらを向いた。
「ん、どうしたのさ、ザビっちぃ」
「アナを俺の『
いざという時に連絡手段になる」
「なるほどね、わかったよぉ! ほい!」
アナが右手を出してきた。俺も鏡で手を返す。
目を見て、脳内に干渉存在の
「…………よっしゃ、できた。
ありがとう、アナ!
じゃ、また後で逢おうな」
「う、うん! じゃ、またねぇ!」
俺達は二手に分かれ、事態の収束に動き出した。
まだ実感の湧かない王都襲撃。だが、確実に敵の魔の手はそこまで迫ってきているのだった。
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