3-19.太陽の昏惑
※今回は、アナ視点から展開されていきます。
ここは、第五部隊宿舎『クイド』。
アタイはこの荒くれ者達が集う無法部隊に配属されてしまった。
入舎初日から喧嘩を吹っ掛けられた時には、もう顔面の笑みが抑えられなかったのを覚えている。
挨拶も抜きにして拳で語り合ったのは、初めての経験だった。
ここは文化も価値観も違うのだ。猛る男共の顔を見て、そう悟った。
『
『
内側から見ると、その情熱は尋常ではなかった。その熱は誰もを引き寄せ、自分自身も熱く熱く滾らせているようだった。
基本を鍛えた後は模擬戦闘が実施された。
いくら鍛えたからと言って、それを上手く活用できなければ意味がない。皆、真剣だった。
それと、関係ないかもしれないが、竜遺児の人も沢山いた。
そう、アタイも
――アタイは、末席貴族の一人娘として生まれた。
王族の血をほんの少しだけ引き継いでいるとかで、小さい頃は様々な社交界の場に出席させられていた。
当然、社交界には
王位継承権なんてずっと下の方の筈なのに、アタイを最後の希望だとか豪語していたお母様とお父様が、アタイを『ワタクシ』に仕立て上げようとしたのだ。
でも、現実はそう甘くなく、何のお声がけもないままにアタイは大人になった。
これにて万事休す、お母様もお父様もアタイを諦めてくれるだろう。そう思ったにも関わらず、二人は『ワタクシ』を諦めなかった。
どこか高位の貴族に嫁がせて、再び家系を立て直そう。そうすれば、また美味しいご飯が食べられるようになるし、舞踏会で華やかな衣装を着て愉しく踊り明かすことができるかもしれない。
二人は現実を見ようともせず、理想を追い求めていた。一度輝かしい人生の花形を見てしまったがために、永遠に囚われていたのだ。
勿論お見合いをするとなれば、アタイも出向かなくてはいけなくなる訳で、どんどん心も身体も蝕まれていった。
そんなときに出逢ったのがリアだった。
彼は私と同じような僅かに王族の血を継ぐ末席貴族のご子息さんだった。
次第に、お見合いの間に行う、彼との逢瀬がアタイの生きがいになっていった。
そんなある日、悲劇は起こった。
その日もお見合いをするために遠方まで馬車で向かった。
その帰り道、突如空から飛来した
アタイ達には二人の護衛が就いていた。
二人に実戦経験はなかったものの、古くからアタイ達に仕えてくれており、長い付き合いだった。
歳を重ねた皴の目立つ手に剣を携えて、
一瞬だった。
逃げる準備をしていたアタイ達だったが、間に合う筈もなく竜の歯牙が迫った。
一直線に狙ってきたのは、まさかのアタイだった。恐怖で身体が竦み、その場から一歩も動けなくなった。
一秒と経たずに、詰められた距離。アタイは目を覆った。大粒の涙を湛えて。
だが、いつまで経っても身体に痛みはあらわれなかった。
ゆっくりと目を開ける。そこには血だらけになって倒れたお父様とお母様の姿があった。
アタイを守るために二人は身代わりになってくれたのだ。
鼻に特有の痛みが走り、視界が揺らぐ。
膝から崩れ落ちたアタイは、ピクリとも動かない二人を揺らし続けた。
「ねぇ、お父様、お母様!
アタイ、ここにいるよ! 返事をして!
ねぇったらねぇ!」
アタイの言葉は宙を泳ぐだけで、何も生まなかった。
そして、
その時、やって来たのがリアだった。ツルツル頭のおじさんと一緒に。
彼はそのおじさんと息を合わせ、振り下ろされた爪を弾き、心臓を一突きした。
鮮やかな立ち回りに、何の言葉も出てこなかった。
彼はアタイに気付くと、右手を差し出してきた。その手を取って、立ち上がろうとするも力が入らず地面にヘタリと座り込む。
彼は立ち上がらせることを諦めたのか、アタイと同じ目線まで顔を下げてきた。
そして、そのまま両腕を広げ、じっとアタイを見てきたのだ。
アタイは涙で顔をぐちゃぐちゃにする。
アタイにもう、生きる術など、生きていく家族などいないのだ。
長年我が家を守ってくれていた護衛さん達も死んでしまった。
行き場のない感情が、止めどなく流れ出る涙の雨が、アタイの世界を閉ざしてくる。
このまま、アタイも死んでしまおうか。絶望が脳内を支配した時、真正面からの温もりを感じた。
前方、かろうじて捉えた視界の端に彼の姿があった。彼はアタイを無言で抱き締めてくれていた。
そこからは暫くの間、その状態でいたと思う。
それから、その日は別れ、後日アタイ達は付き合うことになった。
何もかも失ったアタイに、笑顔の花を与えてくれたのは彼だった。
あの時、救われたから今ここにいることができている。
そう、第五部隊は、アタイと同じように何かしら抱えながらも戦い続けている人が多かった。
反骨精神とでも言うのだろうか。とにかく胸の内にもつ覚悟が凄まじかった。
それでも、アタイはアタイで強かった。
アタイには少し前に覚醒したばかりではあるが、魔法という力がある。
これによって、多少の鍛錬の差では他の隊員に負けることはなかった。
そんな日がもう何日も続いていた。
常に勝ち続けてしまう状況に、いつしか他部隊員への侮蔑の思いが生まれてしまっていたのかもしれない。
無意識の中で口に出た言葉が、大きな反感を買うことになってしまった。
「なんかごめんねぇ。いつも勝っちゃってぇ」
この言葉は一人の耳に届いただけだったのに、いつしか皆の耳に届き、第五部隊の周知の事実となってしまった。
独り歩きして背びれ尾びれがついてしまったことで、アタイの第五部隊での信用は今、地に落ちていると言っても過言ではない。
正直、ここに居づらいとさえ思っている自分がいる。
ザビっちやシショーにもなかなか会えなくなってしまった中で、アタイは誰にも打ち明けられない気持ちを抱え続けたまま、日々の鍛錬に励むのだった。
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