3-15.一週間の重み
入寮して、一週間が経過した。
ここでの生活は未だ慣れないことも多いが、余裕が出てくるのも時間の問題だろう。
俺は今、少々の空き時間ができたため、『このなり』を探検しようとしていた。
今の今までそういった類のものは、イノーさんに禁止されていたこともあってできていなかった。
だが、今日は違う。『
きっと風邪か何かを
この機会、逃してなるものか。
これだけ広大な敷地を誇っているというのに、どこも見られないなんてもったいないにも程がある。
ちなみに、寮内の建物の位置関係は事前に把握しておいた。
寮は部隊ごとに宿舎が別れている。
それぞれの宿舎で生活の全てが完結しているため、わざわざ絶対的な用事がある以外には外出する必要がない。
食堂に寝室、運動用の体育館、大浴場と選り取り見取りの
何せ『このなり』は、南東二区画全域で一つの寮という扱いになっている。
各宿舎もそれぞれかなり離れているし、普通に過ごしていれば他部隊を見かけることもないのだ。
最初に来たのは、第一部隊宿舎『ウヌス』。
第一部隊は、
ここに配属されたとして、専ら組織員の噂になっているのが、あのリーネアだ。
結局、
だがしかし、何とも妙だ。勝手に玄関から入ったものの、廊下には人っ子一人歩いていない。
皆、どこかに行ってしまったのだろうか。
それとも部屋から自由に出ることも許されていないのだろうか。
いや、流石にあのエクでもそんなことはしないよな。……しないよな。
とりあえず情報が欲しい。手近な部屋の人に話を聞いてみよう。
丁度真横を通った一〇〇号室にノックしてみる。
「すみません! 誰かいませんかぁ?」
他部隊への訪問は、全体の
事実として、今現在閑散とした宿舎内が何とも言えない不気味さを醸し出している。
まるでここへは来るなと囁いてくるように。
「えっと、どちら様……ってクソザビ⁉」
俺は今日、とことんツいているらしい。ようやく出てきたこの部屋の住人は、リーネアだった。
一週間ぶりの再会となったが、どこか疲れているような、老けたような印象を受けた。
「おい、お前なんでこんなとこに?
いくらクソザビでも第一部隊にゃあ来ねぇ方がいいぜ?
……まぁ、来ちまったもんは仕方ねぇや、上がってってくれ」
「……おう、そうさせてもらうぜ」
未だ心のザワつきは収まらないが、話が聞けるならそれでいい。
とにかく今どんな感じで暮らしているのかを知りたいだけなのだから。
通された部屋は薄暗く、物があちらこちらに散乱していた。
まるで例の研究室みたいだ。
「お前、よくこれで人を通そうと思ったな……」
「いやぁ、お前は知らねぇかもだけど、第一部隊は厳しく厳しく独自の
だから、迂闊な行動なんざできねぇのさ」
「ほぉう。俺達はわりかし自由だが、お前達は違うんだな。
でも、その、独自の
「おう、よくぞ聞いてくれた。
まぁ、簡単に言えばエクの言いなり、そうだな……。
要するに
「ソイツは酷な言い方だな。
つまりは、エクの言ったことには絶対に『ワン』と言わなければならない、と……」
「そうさ、最悪だろ?
俺達をただの駒としてしか見ちゃいねぇ。
実践訓練の時もエクの援護をひたすらやらされるんだ」
「皆、成績上位者の筈なのに、ひでぇ仕打ちだ。
てか、リーネア。お前ちゃんと生きられてんのか?
部屋もぐちゃぐちゃだし、お前自体も精気をまるで感じないぜ?」
「生きられてるか……。
毎日しっかりしごかれてるから、生きてはいるんだろうな。
でも、オレ、何のために『我世』入ったか、忘れちまった気がする」
俺はリーネアを直視できなくなっていた。
合格発表の時、腕をぶつけ合った時、あの時の目はもう見る影を失っていたから。
だから、ただ何も言わずに肩を抱き、背中をさすっていた。
心臓の音は微かに、でも確実に聞こえている。大丈夫だ、お前なら。
あの目はきっと生き返る。そう信じて、その日は別れた。
作戦で、また逢おう。その時は笑って逢おう。
そのままの足で、今度は第三部隊宿舎に向かうことにした。
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