3-14.『五瀑征』の審判(後編)

 エクがワシを指差し、声を発しようとした瞬間、右隣りにいたテールムが話し始めた。


「あの、すまない。

そいつに関してなんだが、一つ気になることを聞いてしまって」


 申し訳なさそうに口を出すテールムに、エクは下唇を出しながら応対する。

助かった。とりあえずこの場だけでも乗り越えねば。


「あん、なんだ? 言ってみろ。

燈釐草トリア』の部隊長さんよ!」


「私の名前は、テールムです。

もう覚えてくれてもいいでしょう。

というか、今はザビ少年とやらの話ですよ。

彼は『筆記試験スキエンティア』でも及第点ギリギリ、しかも極め付けは『奪爪戦プグナ』爪八個での退場と聞きました。流石にこれで合格はちょっと……」


 ザビの成績が振るっていなかったことは、ワシも危惧していたことだった。

干渉共有オーバーサイト』でいくらでも解答を教えることはできたのに、そんなものには頼らずザビ少年はやり切った。

これだけでも賞賛してやりたいのだが、確かにこれは平等な試験の場だ。

それは当たり前であり、解答の丸写しが可能であるからと言って許されている訳ではない。

更に、問題は『筆記試験スキエンティア』だけではなく、『奪爪戦プグナ』にもあるのだという。

 この合否の判断をするのは、ワシ達の目は勿論だが、多くの比重はその場で受験生達を見ている担当試験官にある。

当日、ワシ達も魔力を込めた鏡で映し取った映像で、受験生達の頑張りを見ていた。

がしかし、我らも人の子。全てを見切ることは叶わず、結局は担当試験官の話が加味された上で、最終的な合否が決められるのだ。


「ハァハァ! ……その受験生の話を聞いたのは俺だ!

ソイツァ、なかなかに根性がある奴でな、空の世界からの使者に果敢に挑んで倒しちまったらしんだよ!

ッハァ、ほんと、すげーよな!」


 激しく呼吸を乱しながら、何とか会議に参加しようとしているリーベル。

あまり喋らない方がいいだろうに、とんでもない執念だ。

もしかしたら、底抜けに優しい奴なのかもしれない。

普段は相容れようともしない輩だが、今ばかりは心から感謝した。


「……待て、使者の死体はどこに行った?

まさか消えたなんて言うんじゃないだろうな⁉」


 酷く動揺している様子のエクだが、無理はない。

もし死体が無くなっていたとしたら、それは正しく『神様』を殺したという証拠でしかないからだ。

ワシとエクは珍しく息を合わせ、リーベルの次なる言葉を待った。

エクの興味は完全に別のところへと飛んでいった。

このままやり過ごして何事もなかったかのように、配属決めを進めよう。

 ワシ達の興味津々な視線を受けて、恥ずかしそうにボツボツと衝撃の言葉を口にする。

撃たれた反動で苦しんでいるのか、それとも単に言い辛いだけなのか、判断が難しいところだ。


「……アッ、あぁ。フゥフゥ。

じじ、実は、その死体ってのがァ、ハァ…………消えちまったらしくてッ!」


 つまりは、ザビは『神様』を殺した、ということになるのだろうか。

それって、それって――『神様』をもって、『神様』を穿てたってことになるのでは⁉


「――『神殺しゴッドスレイヤー』」


 ワシの口から、無意識下で出てきた言葉。周囲の部隊長達が一斉に唾を呑んだ。


「聞いたか、みんな!

俺達にも『神様』を殺すことができるんだ!

あの、人類を滅亡に追いやらんとする、憎き『神様』共を‼」


「「「ううぉぉぉぉぉぉぉおおおお‼」」」


 『五瀑征ステルラ』は歓喜した。人類で初めての偉業が行われたことを知ったからだ。


「ワシは彼を合格でよいと思うのだが、異論はないか?」


「アァ、異論はねェ!」


「そう言うことでしたら、是非一緒に戦いたい!」


「エクもそれでいいじゃろ?」


 エクは若干の時間、俯いていたが、やがて顔を上げ小さく頷いた。


「もう合格通知も出してる手前、しょうがないな。

で、第二部隊長様のご希望だ。

ザビ少年とやらの配属は第二部隊『火這ドゥオ』とする」


 こうして、一部波乱もあれど、無事ザビの配属先が決まった。

ザビ少年、良かったな。師匠の下でまた学ぶことができるぞ。

ワシはエラー、そしてザビ少年の幸福を祝して小さく拳をつくった。

 ここからは立ち止まることなく、流れるように決まっていった。

何とかエクにザビのことを悟らせずに、やり過ごすことができたようだ。

これからはこんなことはないように気を付けよう。

きっと入隊後も何かと目を付けられるだろうから、仮面の着用は徹底させねばな。

ワシにまた一つ、気を付けねばならない重要事項が増えた。

 アナはリアと離れてしまったものの、第五部隊という新進気鋭な戦闘狂達の集まる部隊へと配属された。

こんな場所に身を置いていれば、強くなっていくのは火を見るよりも明らかだろう。

 そして、ワシは、少し目を付けていた人物がいたため、迷わずその子を一番最初に指名した。

誰も気になっていなかったらしい。争うことなく、彼を奪ることができた。

ワシの手元にある資料、そこには――『ハスタ・プローグ』と書かれていた。

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