『我世』編Ⅰ〈序〉
3-13.『五瀑征』の審判(前編)
※今回は、イノー視点から展開されていきます。
最高議決機関――『
『我世』の今後、もとい世界の行く末を決定するため、全五部隊の部隊長らが所属している機関である。
そして、本日、その会議が開かれるということもあって、ワシ含め部隊長は皆、緊張の面持ちで一日を過ごしていた。
会議の開始時間は、二十時。そして、現在の時刻は十九時五十九分だ。
もうじきあの苦痛の時間が始まってしまう。気持ちとしては、行きたくないとしか言えない。
それもそのはず。全五部隊の部隊長がその面合わせて言葉を交わし合うことになるのだ。
ヒリヒリしない訳がない。そのヒリつき具合は、とある一人の部隊長によって、大いに加速される。
それこそが、この『我世』の総指揮を担っているエク、エク・ラスター・シセルだ。
そう、このニグレオス王国の国王も兼ね、圧倒的なその
エクさえもう少し大人しければよかったものを。
ワシはいつもの如く、溜め息を吐きながら、『
✕✕✕
ワシはできる限りこの会議の行われる場所にいたくない。
だから、限界まで自分の研究室で待機し、開始にちょうど間に合うような時間で行っている。
にも関わらず、ワシは、元よりそこにいるエクを除いて、一番乗りになってしまうのだ。
皆、一秒でも長くこの部屋にいたいとは思っていない。その点だけで言えば、我らは仲良く手と手をつなぎ合えるのだが。
そんな夢物語を想像していると、三分ほど経ってようやく人が集まり始める。
ワシの次にやって来たのは、第三部隊――『
皆からはテールムと呼ばれている彼は、自分の職務に責任と誇りをもつ、とても優秀な奴なのだが、殊この招集には後ろ向きなのだ。
テールムの次は、第五部隊――『
ベルの愛称で呼ばれる彼は、少しばかり落ち着きが足りない。
それでも、こうして部隊長の立場につけているのは、荒くれ者の多い第五部隊の隊員達から絶大な信頼を受けているからである。
ワシは一人で時間を潰していると、純金で造られた玉座に深々と腰を下ろしていたエクがゆっくりと立ち上がった。
「エラーは、確かスビトーでの戦いが長引いているんだったよな?
誰か聞いてるか? 答えろ‼」
強い語気にテールムはビクリと肩を揺らす。
ワシとて恐怖は感じるが、ワシの場合もう慣れが始まっていた。
人類にはいつだって皆、多感な時期があるというものだ。
一つ息を吐き、エクの方を見てワシは話し始める。
「おう、その話ならワシが聞いているよ、エク。
今回の
力勝負で負けたくないからと、エラー単騎で戦っているようだぞ?」
「おいおい、それでこんなに時間がかかっているってのか!
アイツ、やっぱりもうこの地位を去るべきだ!
どう考えたって力が足りてないじゃないか!
そうだろ、なぁ、イノー!」
ワシに投げてくる、と。おい、そこ安心してんじゃないよ。
後方で胸をなでおろしている二人の影があった。
この場にいる奴は、揃って苦痛を味わわなきゃ
「そちらのお二人さんはどうなんだい?
身体の向きを百八十度回転させ、後ろを向く。
普段、ワシからは呼ばない愛称で呼んでやった。
盛大に顔を歪ませる二人の男の姿が、そこにはあった。
「チッ」
リーベルの舌打ちが『英雄王の間』に響いた。
こんなにわかりやすく悪態が付けるとはなかなか度胸のある奴だ。
毎度毎度の雑対応には、こちらが驚かされることの方が多い。
「はぁ? お前態度悪いな。
そろそろ死んだら?
あぁ、また始まった。だから、こうして参加する足が鈍くなっていくのだ。
そろそろ大人になってくれないか、エク。
「おい、総統さん、今なんつったよ。
こんな奴が人類の代表?
笑わせんなよ、俺ァ、楽しく人類救ってんの!
ウケとか気にしないし、そもそも死なねぇ……」
これで、もう何回目だろう。目の前で『
何の予備動作も無しに光の矢が形成され、気付いた時にはリーベルは
鮮血が舞う光景に、ワシらは呆然と立ち尽くす。
リーベルは痛みに耐えるように、撃たれたところを手で押さえている。
「さて、やっぱあんな駄目な奴、当てにしちゃ良くないでしょ。
はい、答えろよ、イノー」
「これは、誠に失礼したな。
まぁ、エラーの引退に関しちゃもう少し待ってやってもいいのではないか?」
「イノーがそう言うなら、引退は待ってあげよう。
でも、アイツ一人じゃ心許ないや。
だから、応援を手配しよう。
できるだけ多くの組織員を割いて、『
エラーは応援など、よこしてくるなと、『
でも、この現状を鑑みれば、エクの判断には頷かざるを得ない。
すまない、エラー。お前の思いは知っているが、ここは命の方が大事だ。
お前には、未だお前の秘技が未習得のままになっている弟子が二人もいるのだから。
「異論はないみたいだし、応援の派遣は決定な。
そろそろ席に着いて、今日の本命を議論しあおう!
――今回の議題は、新入組織員の部隊配属について、だ」
新入組織員の部隊配属とは、文字通り新しく『我世』に入ってきた組織員がどの部隊に配属されるのかを決めるものだ。
毎年、この時期になると、定例議題として挙げられるのだ。
そして、気になる配属先の決定方法だが――。
「さて、では例年通りに
僕は主席を奪る。――リーネアだ」
エクは、毎年決まって、主席になった者を自らの隊に入れる。
取り分け一番最初に名が挙げられる合格者がお墨付きのような扱いを受け、手厚く可愛がられるのだ。
リーネア少年は今年の最注目株だったが、やはり全体における主席も彼だったか。
「えっと、次は第二部隊だよな?
おいイノー、何か聞いてるか?」
すっかりエラーの代弁係のような役回りになってしまっているが、甘んじて受けよう。
帰ってきたらしっかりこのお礼はしてもらうからな。
「エラーはザビ少年とやらを奪りたがっているようだ。どうする?」
エクはその切れ長な瞳をあらんばかりに開いた。
ワシの方を向いて、何か言おうとしている。
確か、ザビ少年の家名は――シセルだったような。
マズい。あの、絶え間ない仮面の努力が全て台無しになってしまう。
偽名を使うよう、教えておくべきだった。
自分の不遜を、もう取り返しのつかなくなった状態で思い知ったのだった。
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