3-8.最高のおかえり

 ロビもこの状況に理解が及んでいないらしい。

ロビは、私に任させてもらえる、『幻の十一柱目』を必ず殺すと、そう言っていた。

このケルーが降臨してきたのは、きっとロビの予想外だったのだろう。

彼らの標的ターゲットが俺ならば、ケルーが来る必要はないはずだ。

となれば、アイツの目的は別にあるのかもしれない。

アイツは何を……待て、アイツはロビを

マズい。俺に最悪の展開シナリオが浮かんだ瞬間、アイツの頭上には赤黒い球体が生まれ始めていた。


「どうでもいい消化試合はこのくらいでいいっスよね。

今日ここに来たのは、他でもない。

裏切り者の排除っスよ! ドクソ外道のロビ、さよならっス!

地獄一本槍イーンフェルヌス=クリス』」


 急速に拡大した禍々しい球体から、極太の光線が放出される。

それらはアナ達には目もくれず、俺とロビのいるところへ一直線に進んできた。

地面を抉り飛ばしながら、刻一刻と距離が縮まっていく。

俺を突き飛ばしたロビは、両腕を広げ全てを受け止めようとする。


「おい、止めろ! お前死んじまうぞ!」


「いいんです、お兄様。

元々、私はお兄様を殺そうとしたではありませんか。

だから当然の報いなのです」


「何があったかはわからねぇ。

さっきまで俺を殺そうとしてたのも紛れもない事実だ。

でも、それでも! お前は俺の家族だ!

一度ならず二度までも目の前で、しかもおんなじ方法で、大事な人を殺されなくちゃなんねぇんだ!」


「申し訳ありません、お兄様!

やっぱりお兄様はお優しいです。

こんな酷いことをした私にまで、救いの手を差し伸べて下さるなんて……!」


 俺にはオズの最期が思い出されていた。

もう、地面にこびり付いた、赤く焦げた文様なんか見たくない。

俺は非力を笑って圧倒するより、力を認めて肩を組み合う方が好きだ。

ロビだって、昔はいい子だった。こうなってしまったのには、絶対に訳がある。

そう信じてやることが俺にできる、最高の再会おかえりだ。


「はぁん。下らない絆とやらで自らの命を落とすとは、なんて可哀想な奴なんスか。

人類、皆お花畑と言ったところっスかねぇ!

ギャーッハッハッハッハッハ!」


「お花畑かどうかは、俺が見定めさせてやるよ!

アナ、魔法の準備を頼む!

ロビ、後でみっちり話聞かせてもらうためにも、お前は必ず生き延びさせるからな!」


「ザビっち、了解だよぉ!

そっちの準備ができたら合図でも頂戴ねぇ!」


「お兄様……!」


 心配そうにこちらを見るロビに、ウィンクで返す。

大事なのは、言葉でなく行動。

見ていてくれよ、ロビ。お兄様は、何度だってお前に手を差し伸べてやる。


「よし、もう時間もない。

ロビは俺の後ろに来てくれ。

んでもって、ぶっつけ本番みたいになっちまうが、仕方ねぇ!

俺とオズとの絆に賭けてやるぜ!

――『反思リジェクト』」


 これは、オズが最後に使った魔法。

ケルーに大打撃を与え、瀕死にまで追いやった。だが――。


「ザビっち、駄目だよぉ!

オズくんの死を忘れたのぉ⁉

ケルーの魔法に耐え切れなかったから、だから……」


 勿論、覚えている。

誰よりも克明に、今でも鮮明に思い出すことができる。

あの立ち上る煙に、焦げた匂い。悲鳴も怒号も飛び越え、凍り付いた世界。

私利私欲の行き着く先、境地がそこにはあった。

あの時、許容できる強さを超えた魔法だったから、オズの身体は


「あぁ、わかっているさ。でも、今は違う!

俺にはお前がいるだろ、アナ!

今だ、かけてくれ、『解放リベレイト』を!」


「あぁ、そうかぁ! ザビっちの狙いがわかったよぉ!

じゃ、いくねぇ! ――『解放リベレイト』」


 相手の魔法の威力は、尋常ではない。生物を一瞬で消し炭に変貌させるのだ。

その殲滅力の高さでは、生身で受け切れる筈がない。

だから、使える手札、魔法を使う。

でも、魔法にも限界がある。もしかしたら、普通の魔法では耐えられないかもしれない。

だから――。


「今回ばかりは礼を言うぜ、イノーさんよ!

存分に使わせてもらおう――『強筋ブースト』!」


 最強の師匠の魔法を、更に高みの次元へともっていく。

生身が駄目なら、二倍にも三倍にも上乗せして戦うまでだ。

反思リジェクト』と『強筋ブースト』の合わせ技で、勝負を奪ってやる。

 遂に光線は、両手を突き出し、中腰で構える俺と接触した。

腕が震え、一瞬でも気を抜けば、直ぐに後方へと飛ばされそうになる。

まるで壁と力比べをしているみたいだ。全く押し返せない。

そう言えば、結局この魔法の説明を受けないままで、オズとは今生の別れとなってしまった。

この圧倒的な力、一体全体どうすれば正解なんだ?

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