2-48.空を奪い取れ

 『捏造ファブリケイト』は、真実を創りかえることができる魔法として、イノーさんから教えてもらったものだった。

俺達は、空を飛ぶ能力をもっていない。つまるところ、現状では、ケルーに攻撃する、有効な手段がないのだ。

であるならば、致命傷、ひいては同等の結末をくれてやるために必要なのは、条件を同じくして戦うことのできる場所である。

そこで、考え付いたのが『捏造ファブリケイト』だったという訳だ。

 そして今、驚くべきことに、俺の視界の中にいるケルーは――――


「おっとぉ、なんかやってきたんスかぁ?

オレ、何の変わりようもない元気もりもり状態なんスけど~」


 終わった。俺が渾身の思いで放った『捏造ファブリケイト』は、俺の味方にはなってくれなかったのだ。

思えば、一度たりとも『探真者』を使い熟すための訓練カリキュラムを積んでこなかった。

俺が修行期間の中で会得したものは、この世界に対するちょっとした知識と、有力者お墨付きの対人戦闘技術、オズが使っていた、記憶を覗く『回顧』という魔法、そして先ほどにも触れた、未完成の『探真者』能力の四つである。

未完成であることはわかっていたが、こうやって重要な局面で痛感させられることになるとは、なんとも苦々しい。

このままではケルーへの攻撃方法が投擲とうてきだけになってしまう。

考えが袋小路で右往左往し始めた時、後方よりまたも声が飛んできた。


「いよっし! とうとうお前の出番がきたみたいだぞ、アナ!

見せてみろ、お前の本当の力を、、その力を!」


「……ザビっちを見ていて、思ったんだぁ。

アタイにできること、何かないかなぁって。

そしたらさぁ、なんかわからないけどアタイ、何かできるような気がしてきてねぇ!

だから…………ちょっとやってみるよぉ、シショー!」


 何かが始まりそうではあるが、アナは一体何をするつもりなのだろう。

バッと後ろに身体を向け、その勇姿を見届けようとする。

アナの口はさも当然のように動き始め、つらつらと詠唱を紡いでいった。


「猛き者、気高き者にも挫折、苦心の時節あり。

我、太陽の光輝纏いて、彼等に煌々たる導を与えん――『解放リベレイト』」


「お前、まさか『破限者』とでも言うんスか⁇」


 ……これは、魔法?

ケルーは謎の言葉を吐きながら、アナの魔法?に驚きを見せる。


「さぁ、ザビ少年! 今度は君の番だ。

もう一度、ワシの魔法を使ってみてくれたまえ!」


 俺は促されるまま、もう一度、あの魔法の使用を試みる。


「あいつの空を奪い取れ、『捏造ファブリケイト』!」


 すると、夢にまで見た場面が眼前で展開されていく。

漆黒に染まった両翼の音が、徐々に消えていった。


――それすなわち、ケルーの空中の自由が無くなることを意味する。


「はぁぁぁぁぁああ⁉

おい、やめろよ、冗談じゃないっスよ!

ああぁぁぁぁぁぁぁあああ‼」


 顔を真っ赤にして、右腕、左腕を交互に動かすものの、翼はピクリとも動かなくなっていく。

そして、そのままケルーは、地上へと落ちていった。

試験当日まで、残り五日。




✕✕✕




 密かにつながっていた脳内で、とある映像が共有される。


――これが、アナの能力ってことか、イノー?


――そうさ、エラー。

アナは、名付けて『破限者』。

歴とした『神種ルイナ』だったのだよ。驚いてくれたかい?


――あぁ、予想以上で正直ビビっているさ。

なるほどな、お前があれだけ言っていたのも納得したよ。

……なるほどなぁ。


 その是と非とも捉えられる呟きを最後に、この通信は終わりを告げた。

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